第21章 〖誕生記念〗愛され兎と真紅の『かれし』/ 織田信長
(……もっと、ぬくもりを感じたいな)
私は欄干から、天主の奥に足を向けた。
天主の一番奥の部屋には褥が敷いてある。
信長様が寝起きをする場所、そして……
私があの人の腕に何度も抱かれた場所。
今日もそこにはいつものように、褥が敷いてあった。
そして、いつも着ている夜着も掛かっていた。
私は掛かっている夜着も手に取ると、二着の夜着を腕に抱えて布団の中に潜り込んだ。
私はいつもあの人の右側に寝る。
だから、いつも通り左側にスペースを空けて、横向きに寝転がった。
すると、温もりと共に…
ふわりと落ち着く匂いが鼻をくすぐったのが解った。
────あったかい、信長様の匂いがする
男の人なのに、どこか甘い匂い。
少しだけ香が混じったような…
でも清潔感のある、あの人の匂い。
褥から漂うそれは、まるであの人の腕の中にいるような、そんな心地にさせた。
そして、その温もりも…
布団がふかふかだからとか、そんなんじゃなく。
まるであの人自身に包まれているような、そんな感覚にすら陥った。
「……っ、信長、さまぁっ……!」
次第に視界が滲む。
信長様の匂いがする褥と夜着。
それらは全て、私の涙を誘った。
会いたいのに、会えない。
謝りたいのに、謝れない。
どうして、貴方はここに居ないの?
どうして、私を独りにするの?
寂しい、
寂しいよ、どうしようもなく。
────触れたい、信長様に
早く抱き締めてほしい。
あのたくましい腕で、力強く。
そして、隠してごめんなさいと。
本当の事を話したい。
「ごめん、なさいっ…ごめんなさい、信長様ぁ…」
唇からは、それだけが零れて。
私はまるで子どもみたいに泣きじゃくった。
次々に涙は流れて、褥を濡らす。
苦しくて、切なくて、寂しくて。
しゃくり上げては、また嗚咽となって溢れ出る。
貴方に疑われて、悲しかった。
とてもとても、傷ついた。
でも、貴方はもっと傷ついたんですね。
私に隠し事をされて。
きっと、不安だったんですね。
誰のものかも解らない着物を仕立てていて。
謝りたい、だから……
早く帰ってきて、信長様。
寂しくて寂しくて、死んでしまう
貴方の温もりがなければ…
私は、笑うことすら出来ない