第21章 〖誕生記念〗愛され兎と真紅の『かれし』/ 織田信長
『どう見ても、男物の布地のようだが』
『は、はい、そうです……』
『俺に言えないという事は、仕事でもなさそうだ』
『……っ』
私は信長様の言葉に、思わず口を噤んだ。
だって、だってそれは。
『貴方の誕生日の贈り物です』なんて。
どうしても、言うことが出来なかった。
それは、私なりの小さなプライド。
信長様をびっくりさせて喜ばせたいと…
ただそれだけの思いだった。
(だったら、天主でやらなきゃいいのに、私のバカ…むしろ、信長様が帰って来るのに気づいてれば!)
自分の要領の悪さに呆れてしまう。
私が口を結んで、何も言えずにいると…
────トンっ…!
肩が押され、視界が反転した。
気がつけば私は天井を見上げていて、その視界には私を上から見下ろす信長様がいて。
信長様に押し倒された、と気づくや否や…
その紅い瞳が翳り、氷のように冷たい事にも気づいて、私は思わず目を見開いた。
『信長、さ……』
『俺に言えないような相手に作っていたのか?』
『え……?』
『その愛らしさで、男をたぶらかしたのか』
『なっ……!』
あまりの言葉に、私は声を荒らげた。
言えないような相手に作る訳が無い。
だってこれは、信長様の誕生日プレゼントだ。
なんて事を言うのだろう、男をたぶらかしたのか、なんて…!
私は思わず頭にきてしまい、下から信長様を若干睨みながら、言葉を続けた。
『そんな訳無いでしょう?!何を仰るんですか!』
『なら、申してみよ。誰に作っていた?』
『そ、それはっ…言えません、けどっ……』
『言えぬのだろう?やましい事があるから言えない、そうではないか?』
『ち、違います!』
『なら、何故言えぬ?』
その質問に、私は答える事が出来なかった。
それはもちろん、それが信長様に秘密で作っていた贈り物だったと言うこともあるけれど…
私はただ、悲しかった。
私の気持ちを少しでも疑った信長様が。
私には貴方しかいないと。
それが解っているはずなのに…
『言えないような、やましい相手に作っていたのか』
そんな風に疑われたこと。
あんな風に冷たい目で、冷たい声で責められた事。
自分が隠しているせいだと言うのを棚に上げで。
私は、勝手に傷ついたんだ。