第3章 〖誕生記念〗揺れる桔梗と初染秋桜《後編》/ 明智光秀
「だって、私を好きだって、大切にするって…!」
「勿論、好きだし大切だよ?大事な商品だからな、まぁそこそこに可愛いし…俺で汚せなかったのが惜しいくらいには」
「本当に、光秀さんが私に言っていたように、人身売買をしていたの?!それで、私を売ろうと……!」
「なんだ、そう聞いてたのに俺に付いてきたのか?本当に馬鹿だな」
「違う!私は信じてたから…貴方は、そんな事するはずがないって!」
(美依……)
美依がどんどんと静馬の胸ぐらを叩く。
静馬はそれをせせ笑いながら、されるがままになっていた。
美依の痛々しい悲鳴のような声が響いて……
そして。
「私を、騙したんだね……?!」
美依の瞳から大粒の雫がこぼれ落ちた。
初めて付き合った男に、酷い裏切り方をされて…
美依の心境を考えると、身が切れそうに痛い。
そして、ふつふつと沸き上がる怒りの炎。
美依を泣かせた、その事実だけで……
灼熱に燃え滾った怒りの感情が、表にドロドロと溢れてしまいそうだった。
「美依をこちらに渡してもらおうか、もう終いだ」
俺はなんとかそれを堪えると、冷静を装って、美依に手を差し出した。
美依さえ戻ってくれば、こいつの処分などどうにでもなる。
今頃湖では、話を聞いた秀吉辺りが買主を縛り上げているかもしれない。
こいつもこの手で引っ捕らえ、秀吉や九兵衛と合流すれば……
そんな安直な考えをしていると、静馬は卑劣な表情でにやりと笑い、その端正な顔をいやらしく歪めた。
「いや……まだだ」
「きゃっ……!」
「……っっ!」
────その刹那
静馬は素早い動きで美依の身体に手を回し、そして……
腰から短刀を抜いて、美依の首に先を突きつけた。
「美依っ……!」
宵闇の薄暗い中、その刀だけが煌りと光る。
その研ぎ澄まされた、鋭い白刃は……
美依が少しでも動けば、その細い喉元を切り裂いてしまいそうだった。
ごくり、と生唾を飲んでそれを見る。
静馬は場違いな恍惚な笑みを浮かべながら……
美依の顔を間近で見つめ、言葉を発した。