第20章 〖誕生記念〗暁に咲く夢見草 / 豊臣秀吉
────ああ、まるで私の想いみたい
命儚い、この乱世で
奇跡的にめぐり逢えた、運命の人
そして、想いは鮮やかに色づいて
平和な夜の夜明けを待ち侘びる
桜みたいに、儚い命でも
未来を目指す貴方と魂を燃やすんだ。
「……ごめんな、美依」
「え?」
「誕生日までに帰って来れなかったから」
「秀吉さん……」
「お前が祝いたいって楽しみにしてるの、知ってたのに」
(秀吉さん、気にしてくれてたんだ)
明けていく空を見ながら、少ししょんぼりと呟く秀吉さんの声が耳をくすぐる。
秀吉さんが気にすることじゃないのにな。
勝手にお祝いしたくて、勝手に残念がって、全て私都合なのに…
秀吉さんは優しいから、俺のせいで…とかきっと思ってる。
私は身体をひねって秀吉さんの方に向き直ると、顔を覗き込みながら、精一杯の笑顔を向けた。
「秀吉さんが謝る事じゃないよ。私はただ…一言伝えたかっただけだから」
「え?」
「秀吉さんにありがとうって伝えたかったの」
目を逸らさず、精一杯見つめる。
朝焼けで明るくなって、秀吉さんの顔がよく見えるから。
きっと私の顔も赤いけど…
朝陽に照らされてるから、解らないよね?
伝えたい事はたくさんあるけれど。
これだけはきちんと伝えたい。
それは、ひとつの道を歩く貴方へ、
精一杯の感謝と、溢れ出す愛しい想い。
────愛してるよ、と
「お誕生日おめでとう、秀吉さん。この世に生まれてきてくれて、ありがとう。生まれてきて私と出逢ってくれて、ありがとう。そして…愛してくれて、ありがとう。だいすき、貴方が…だいすきだよ」
「美依……」
すると、秀吉さんはその榛色の目を見開いた。
直後──……
「あっ……」
強く掻き抱かれ、一瞬息が止まる。
ぎゅっと身体に回された腕は、痛い程に力がこもっていて。
びっくりしていると、少し悔しそうな、そんな声色の呟きが耳に直接注ぎ込まれた。