第20章 〖誕生記念〗暁に咲く夢見草 / 豊臣秀吉
秀吉さんが連れて行ってくれたのは、城下を抜けた先にある森をさらに抜け、下に川が流れる崖の上だった。
気をつけなければ、かなり危ない場所。
でも──……
その崖のすぐ側には、立派な桜の木が一本あって。
枝垂れて薄紅の花を付ける様は、薄暗い中でも圧倒されるくらいに美しかった。
はらりはらりと、儚く花びらが散って…
風に乗っては、崖の向こう側へと舞っていく。
「わぁっ…綺麗……!」
「だろ?でも危ないから、あまり崖際までは寄るなよ?」
「見せたかったのは、これ?」
「いや、違う。桜もそうだけど、もっといいもんが見れるぞ…ほら、来い」
すると、秀吉さんは桜を背に座り、胡座をかいて腕を広げた。
それはつまり…膝に乗れってことかな。
少し恥ずかしいけど、くっつけるの嬉しい。
私はそう思いながら、秀吉さんの膝の上にちょこんと座り込む。
秀吉さんは私を背中から包みこみながら、肩に顎を乗せて、お腹の前に手を回した。
「なんか久しぶりだな、こーゆーの」
「うん、本当に」
「お前はあったかくて、なんかほっとする」
「ふふっ、私も秀吉さんにこうされるとほっとする」
「そっか…ああ、もうすぐだな」
秀吉さんがそう言って、崖の先の空を指差す。
そこは夜明け前の濃紺の空から、だんだん白み始めていて…
棚引く紫の雲も、徐々に赤く色づいていくのが解った。
「あ、夜が明ける」
「ああ、よーく見てろよ?」
すると──……
紅く色づく雲の隙間から光が漏れだし、それが少しずつ少しずつ上に登っていく。
光は黄金、雲は朱色。
そこは明るく色鮮やかなのに、その上の方にはまだ夜の名残の青い空が微かに残っていて…
「わぁ…………!」
まるで虹色。
赤、オレンジ、金色、薄青、濃蒼……
空全体がまるでパレットの中の絵の具みたいに、それぞれの色をくっきりさせながらも、絶妙に混じって虹色を描いている。
「すごい、空綺麗…!」
「だろ?馬で立ち寄った時に、偶然ここで朝焼けを見て…綺麗だからお前にも見せてやりたかったんだ。ほら…桜も」
その空に混じるように、薄桃の花びらが可憐に舞う。
時折風が吹き抜けては、一斉に散るそれは…
とても幻想的で、鮮やかでも儚いこの世を映しているようだ。