第20章 〖誕生記念〗暁に咲く夢見草 / 豊臣秀吉
会いたい、今すぐ
貴方に、会いたい──……
想う気持ちは願いとなって、
私の心を支配する。
貴方の向日葵みたいな笑顔が見たい。
見るだけで安心するような、
あったかくて、力強い笑顔。
そして、名前を呼んで、
『美依』と言って抱き締めてほしい。
────貴方に、だいすきって伝えたい
コ ン ナ 二 モ 恋 シ イ
寂 シ ク テ 寂 シ ク テ
いつしか私は、机にもたれかかったまま、眠ってしまっていた。
涙の筋にも気づかずに。
淡く優しい夢を見ていた。
それは満開の桜の下で愛しい人が手を伸ばし、満開の笑顔で私を呼んでいる。
その手を掴もうとしたら…
するりとすり抜け、掴めない。
そんな、少しほろ苦い夢だった。
*****
『────美依』
夢うつつに名前を呼ばれた気がする。
甘く優しい声。
私が聞きたかった…愛しい人の囁き。
その時、ふわりと頭に温もりが落ちてきて。
ああ、気持ちいいな。
私はそれを合図に、ゆっくり瞳を開いた。
「ん……?」
「こんな所で寝てたら、風邪ひくぞ?」
その声に、ゆっくり頭を持ち上げる。
すると、すぐ横で私を見下ろす、薄茶の瞳と視線が絡んだ。
(え……?!)
その姿を見て、思わず目を見開く。
間違うはずがない、部屋が暗くたって。
それは──……
私が焦がれ、ずっと待ち侘びた人の姿だった。
「秀吉、さんっ……!」
「ただいま、美依」
「お、おかえりなさいっ……!」
(本物、だよね……?!)
手を伸ばし、その頬に触れる。
温かな体温、少し硬い肌。
でも、しっとりと手に馴染む感触は…
その人が本物の秀吉さんと証明していた。
「どうした?」
「ほ、本物か確かめたくて……」
「本物だよ。ほら、こうすれば解るだろ?」
すると、秀吉さんはふわりと私を優しく抱きすくめた。
少し高めの体温と、大好きな匂いと。
十日ぶりに感じる『秀吉さん』に、乾いたはずの瞳が潤み、また雫がつーっと頬を伝って流れていった。