第20章 〖誕生記念〗暁に咲く夢見草 / 豊臣秀吉
────会いたいと言う気持ちは
きっとこの穏やかな春の空を飛んで
貴方の元に届いたんだ
私が寂しがるから
寂しい寂しいって嘆くから
本当に、いつも優しいね
だからすき、貴方がだいすき
今日は貴方の特別な日だから
貴方を喜ばせたいのに
やっぱり私ばかり喜んでいる
ひらり、と想いがが舞って
ぽとり、と心の中に落ちた
そう、桜の花びらのように
淡く紅に色づいた、ひとつの恋
それは、永遠の愛
貴方に捧げた私のすべて
*****
(やっぱり帰って来なかったな、秀吉さん…)
独り、小さくため息をつく。
真っ暗な秀吉さんの部屋、行燈も付けず…
私は未だ帰らぬ愛しい人を思い、思わず瞳を伏せた。
秀吉さんは、公務で遠方に赴いている。
何かとても重要なお仕事を任されたらしく、秀吉さんは張り切って出掛けて行った。
もちろん、離れるのは寂しい。
けれど、お仕事じゃそんな事は言えない。
だから、寂しいのを誤魔化し、笑顔で見送った。
気掛かりなことがあっても──……
「もう、十日も経ったんだ……」
陽が落ち、暗い部屋の中で目を凝らし、壁にかかっている暦を見る。
秀吉さんが安土を離れて十日も経ってしまった。
今日はとても大切な日なのに…
不安は的中。
やっぱり秀吉さんは『今日』までには帰って来れなかった。
今日は三月十七日。
秀吉さんの、誕生日──……
(一緒にお祝い、したかったな)
私は秀吉さんがいつも使っている文机の前に、腰を下ろした。
そして、そのまま机に突っ伏す。
なんとなく目頭が熱くなってきたから…
それを誤魔化したかったのかもしれない。
今日と言う日を一緒にお祝いしたかった。
恋仲になって迎える、初めての誕生日。
秀吉さんの生まれた、特別な日を…
せめて『お誕生日おめでとう』と伝えたかった。