第19章 〖誕生記念〗焦がれし天色、愛しい君へ《後編》/ 徳川家康
「うるせぇ、誰もここには来ねぇよ」
「やめてっ…家康、家康っ……!」
「往生際が悪いな、一緒に気持ちよくなろうぜ?」
そして聞こえてきた会話に…
俺は頭に血が上り、すぐさま引き戸に手を掛けた。
「美依っっ……!!」
────バタンっっ!!
勢いよく引き戸を開けた先に見えたもの。
部屋中に散らばった、鮮やかな布達。
寒い部屋に曇る、熱い息。
小柄な女に覆いかぶさる、乱れた着物の男。
そして…
無惨に着物を切り裂かれ、男の下敷きになっている、愛しい愛しいあの子。
「いえ、やすっっ……!!」
(美依……!!)
「こ…の野郎……!!」
二人がこちらに気づくや否や、俺は叫んで男に飛びかかった。
男の裸の肩を掴んで、美依から引き剥がして。
勢いつけて引っ張ったものだから、肩を掴んだまま男と畳に転がり込む。
「いてぇっ、くそっ!」
「お前、美依によくも…!」
男が身体を捻って掴みかかってきたので、そのまま畳の上で男と掴み合いの殴り合いになった。
頰を殴られ口が切れれば、反対に殴り返して痣が出来る。
許さない。
この子に手を出した、こいつだけは絶対。
頭に血が上った俺は、それだけの感情で男に馬乗りになり、その額を掴んで畳に頭を押さえつけた。
「この子に手ぇ出して…ただじゃおかない」
「はっ、別にお前の女でもないんだろ?片想いですか、青いねまったく」
「うるさい、八つ裂きにしてやる!」
「やれるもんなら、やってみろ!」
「…っ家康!」
一瞬、美依の声に気を取られた。
次の瞬間。
────ザシュッッ!!
「きゃぁぁぁぁ!!」
美依の悲痛な叫びと共に、左腕が切れて、真っ赤な鮮血が飛び散った。
大丈夫、肌を掠めただけだ。
男の手に、いつの間にか握られていた小さなハサミは、俺の血でてらてらと紅く光って。
多分、布とか切るためのハサミ。
そんなんで…脅しになるとでも?