第18章 〖誕生記念〗焦がれし天色、愛しい君へ《前編》/ 徳川家康
「あんた、着物仕立てるの?」
「はい、自分で作りますよ」
「新しい仕立て方って興味ある?」
「えっ…興味あります!」
「独特の技法なんだけど、良かったら教えるよ。あ、なんだったら空いてる日教えて。その日に、手取り足取り教えてあげる」
(なっ……)
俺はその男が目を光らせたのを、見逃さなかった。
そして、確信する。
こいつ…明らかに美依に好意を持っている。
さっきからなんか馴れ馴れしいし。
やたら距離が近いし。
『手取り足取り』が、本当に着物を仕立てる事を意味しているのか…
────とにかく危険な匂いがする
「いえ、結構です」
「…っ!」
俺は美依の肩を掴むと、ぐいっとその男から身体を引き離した。
美依の肩から朱の反物が滑り落ちたが、それを無視して距離を取る。
そして、美依を背中に隠し…
射抜くように、男を見つめた。
「この子、針子の仕事忙しいから」
「……」
「だから習いに行ってる暇ないんで」
「……へえ、そう」
男も俺を見つめてくる。
いや、睨んでいると言った方が正しいか。
その黒い瞳には明らかに、俺への嫌悪と闘志の炎が燃えていて…
負けるものかと。
俺も視線を強め、相手を睨みつけた。
美依を狙う奴は放っとけない。
それが誰であれ…
渡す訳にはいかないから。
「あんたはこの子の男?」
「関係ないでしょ…美依、行くよ」
「あ、家康……!」
俺はそのまま美依の手を取り、少し早足で歩き出した。
危ないな、あの反物屋。
美依に目をつけるなんて…
見る目はあるようだけど、美依にも気をつけさせないと。
そんな事を考えながら足を進めれば、美依も大人しくついてきた。
だが、この子は無防備だからな…
あの話を本気にして、ほいほい習いに行くかもしれない。
俺は反物屋からかなり離れた所で立ち止まると、美依の方に振り返り、確認のために問いかけた。