第18章 〖誕生記念〗焦がれし天色、愛しい君へ《前編》/ 徳川家康
「美依、あんたまさか本当に習いに行こうとか思ってないよね?」
「え、だめなの?」
「だめ」
「なんで?」
「なんでって…気づいてないの?」
「???」
(……何がなんだか解らないって顔だな)
美依は素直だけど、その分鈍いと言うか鈍感と言うか…
本人が自覚ない所がタチが悪い。
やっぱり周りが気をつけてやらないと、いつかとんでもない事件とかに巻き込まれそうだ。
俺は小さく溜息をつき…
美依に言い聞かせるように言葉を続けた。
「とにかく、あの店には今後一人で行っちゃだめ」
「え、なんで?」
「なんでも。行くなら俺がついて行くから」
「てかさ、家康…」
「何」
「手っ……」
美依が恥ずかしそうに俯くので、手を見てみれば、繋いだままだった事に気がついた。
衝動的に手を引いてしまった事に…
俺は焦って手を離し、そっぽを向いた。
今まで掴んでいた小さな手の温もりが、まだ残っているような気がして…
(なんだこれ、むずむずする)
俺は胸の奥底がじくじく疼いているような気がして、どこかもどかしく、むず痒い気持ちになった。
その手をぎゅっと握って温もりを誤魔化す。
火照り始めた顔や、手の熱さはなかなか冷めてはくれなくて…
美依と向かい合いながらも、俺は一言も言葉を放つ事が出来ぬまま立ち竦んだのだった。
芽吹くにはまだ早い
早すぎる…寒い寒い冬
それは、まるで俺の気持ちのようで
それでも、花咲く時を夢見る
出来れば、あんたと…
極彩色の春を望んでいる
『すきだよ』
そう伝えられたら、
どんなに良いだろう
もう少し、俺に勇気を頂戴
愛しいあんたに届く様に
隠せない恋しさを伝える術を
冷たい風が頬を撫でる。
その切れるような冷たさを受けて、
熱い頬がますます火照っていく。
俺は立ち竦みながら…
その先を切に望んだのだった。
手を繋いだその先を。
美依と見る極彩色の春を──……
〖誕生記念〗
焦がれし天色、愛しい君へ【前編】 終
〖誕生記念〗
焦がれし天色、愛しい君へ【後編】に続く