第16章 【戦国Xmas】徳川家康編《後編》
「光秀さんに聞いた、宿り木の言い伝え」
「え、そ、そうなの……?」
「光秀さんまであんたを誘いに行ってたのは予想外だったけど…あの人には譲れないから、あんたの口づけ」
「ど、どうして……?」
「それを今から教えるんでしょ」
(しっかりしろ、俺…素直に言うと決めただろ)
美依を目の前にして、顔が火照ってくる。
なんか喉は渇くし、指先は震えるし。
好きな子に、素直に想いを伝えるというな事が、どれだけ大変な事か改めて思い知った。
けれど──……
もう美依への想いは、膨らむに膨らみきって苦しい。
伝えなければ、おかしくなってしまう。
ずっとずっと、この子を甘やかしたいと思っていたから。
────宿り木の精霊よ
くりすますの奇跡を起こせ
「一回しか言わないから、よく聞いて」
美依の腕に、そっと手を添える。
俺の手が熱いせいか……
舞う粉雪は、肌に触れては溶けて消えていく。
俺はそのまま、震える唇を開いて。
ずっと言いたかった言葉を紡いた。
「────あんたが、すき」
「……っっ」
すると、美依は小さく息を飲み、目を見開いた。
その黒曜石のような瞳には…
照れたような、怒ったような。
そんな自分の姿が映っている。
たった一言、それが言いたくて。
ずっとずっと言いたくて堪らなかった。
「い、えや……」
頭で理解出来ないのか、真っ白になっているのか。
美依は唇を震わせ、俺を見つめたまま固まっている。
そんな姿ですら…
可愛くて愛しい。
「……何か言いなよ、美依」
「いえ、やす、もう一回……」
「一回しか言わないって言ったでしょ」
「だって、いえや……」
髪には、しんしんと雪が積もって…
美依の黒い髪が、だんだん白く染まっていく。
赤い唇からは寒そうに、白い息が吐き出されていて。
そのどことなく感じる儚さに、俺は思わず美依の腕を引っ張って、その小さな身体を掻き抱いた。
腕にすっぽり収まる、柔い温もり。
それがさらに愛しさを募らせて、甘い感情に支配されていく。