第15章 【戦国Xmas】徳川家康編《前編》
「でも、私は……」
「別に他に誘われていないなら、構わないだろう?」
(…ん?この声……)
美依の部屋近くまで来て話し声が聞こえ、思わず足を止めた。
今の声…光秀さんだったような。
そう思いながら、廊下の曲がり角で聞き耳を立てる。
すると、美依の戸惑ったような声と、どこか余裕のあるような光秀さんの声と。
その両方が聞こえてきて、俺はそのまま会話を聞き入った。
「私、そこへは行きたい人がいるので…」
「しかし、その男は言い伝えを知らない。違うか?」
「そ、それはっ……」
「知らないなら待っていても来るはずがないと、その容量の無い頭でも解る筈だ」
「……っっ」
「だったら俺にしておけ、美依。お前となら、永遠に結ばれるのも…悪くない」
(なっ……!)
声が出そうになって、思わず手で口を塞ぐ。
それは明らかに『くりすますの宿り木』の話で、光秀さんが美依を誘いにきた会話だった。
まさか、光秀さんも美依を狙って…!
そう思ったら、じっとしていられなかった。
急いで曲がり角を曲がり……
気がつけば、二人に向かって声を荒らげていた。
「その話、ちょっと待って……!」
「え、家康……?!」
俺の声に気がついた二人。
すぐさまこちらに向き、美依が目を丸くさせて、声を上げた。
俺は素早く美依に近づき、二人の間に割って入る。
そして美依を背にし、光秀さんを軽く睨みながら…
出来るだけ冷静な声で話した。
「光秀さん、ちょっと待ってください。美依を誘うのは…俺です」
「おや、昼間はそんな素振りは無かったが」
「気が変わりました。俺に言い伝えを教えたのは間違いでしたね、あんたには…譲れません」
「どうする気だ、家康」
「家康、どういう事……?」
背中に居る美依が、不思議そうな声を上げる。
俺はそのまま振り返り、美依の小さな手を掴むと…
自分でもびっくりするくらい強引に、美依を引っ張って歩き出した。