第15章 【戦国Xmas】徳川家康編《前編》
「行くよ、美依」
「え、どこに?」
「ついてくれば解るから」
「ちょっ、家康っ……!」
光秀さんを残し、足早に廊下から去る。
あの琥珀の瞳が、とても意味深に俺達を見つめていた気がした。
それでも、関係無しに…
俺は美依を取られまいと必死になって、その華奢な手を引いたのだった。
──── 一方、取り残された光秀は
二人の後ろ姿を見送り、少し優しげな笑みを浮かべながら、ぽつりと呟いた。
「全く、焦れったい二人だ。お互い奥手で本当に困る…家康が来なかったなら、そのままかっさらっても良かったが。……今宵は寒くなりそうだな、そんな夜は肌で温め合うのが相応しい」
その言葉は、冬の空気に溶け入り…
誰の耳に入ることも無く、儚く舞う雪のように、静かに降り積もる。
今宵は聖夜と言うらしい。
神の誕生を祝う、厳粛な夜ならば…
もしかしたら、男女が想いを交わすと言う事すら、ふしだらな行為に映るのかもしれない。
それでも美依曰く。
宿り木は『宿った妖精が、幸福や幸運をもたらす聖なる木』なんだそうで。
それならば、その妖精の祝福を受けるように…
そうして愛を確かめ合うのも、悪くないのではないか。
柄にもなくそんな事を考え。
光秀は一人、くすっと苦笑した。
「めりーくりすます、美依。
愛しい男と、幸せになれるといいな」
はらりひらり舞う、ひとつの恋
俺はあんたに恋をした
この熱情は抗う事すら出来ない
それほどまでに、愛しくて
恋しくて…息もできない
俺は美依の手を引きながら、
心の中で必死に祈っていた。
この手を離したくない、
俺の想いよ、どうか届け……と。
この世に神が居るのなら、
この子の心を俺にください。
儚い願いと共に、雪は今宵咲く。
舞い降りた天使となって世界を染めて、
そしてこの手で、
『くりすますの奇跡』を起こすのだ──……
【戦国Xmas】徳川家康編《前編》終
【戦国Xmas】徳川家康編《後編》に続く──……