第15章 【戦国Xmas】徳川家康編《前編》
────御殿に帰って、その日の夜
俺は縁側で、ぼんやり空を見上げながら…
今日あの子と交わした会話を、ひたすらに思い出していた。
視界に映るのは、どんより鉛がかった夜空。
もしかしたら、雪が降るかもしれないな。
そう思いながらも、思考は別の事に流れていく。
今日は『くりすますいぶ』
『くりすます』が前夜から祝うなら…
あの言い伝えも、今夜から有効という事になる。
宿り木の下で口づけたら、永遠に結ばれる。
それは言い伝えと言うより、おまじないと言うか…
儚い乙女の祈りを象徴したような、願掛けに近いのものなのだと思う。
そんなの、完全には信用してないけど。
それでも、頰を染めたあの子は信じているのかもしれない。
そして、俺に言えなかったという事実は…
俺は少しは自惚れても良いのだろうか。
(あ……)
────その刹那
見上げた夜空から、はらりと粉雪が舞った。
真っ白な結晶、それは……
どこかあの子を彷彿させ、思わず息を飲む。
『家康』
澄んだ音色のような声
名前を呼ばれるだけで、息が詰まって
もっと名前を呼んでほしいと
その唇から、
もっと名前が紡がれるのを聞きたいと
俺は…いつも願っていた気がする
────会いたい、今すぐに
瞬間、強くそう思った
この雪を、あの子と一緒に見たい
出来れば、宿り木の下で
想いを交わし、そして…
唇を重ね、永遠を誓い合う
「もう…自惚れでも、構わない…かな」
俺は暖かな羽織を身に纏うと、襟巻きを巻き直し部屋を出た。
そのまま真っ直ぐに城へ向かう。
もしかしたら、もう寝ているかもしれないけど…
粉雪の妖精よ
くりすますの魔法よ
……少しだけ俺に勇気を頂戴
そう儚く願う。
ひねくれ者の自分に、素直になる魔法を。
想いよ、あの子に届けと……
小さく小さく祈りながら、城へ向かう足は加速していったのだった。
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