第15章 【戦国Xmas】徳川家康編《前編》
「これは脈ありだぞ、家康」
「どーゆー意味ですか」
「俺が代わりに、その言い伝えを教えてやろう」
「え…」
すると、光秀さんは口角をくいっと上げ。
顎に手をやると、どこか含みを持たせたように話し出した。
「宿り木と言われる木があるのは知っているか」
「ほや、の事でしょう?冬でも上の方に、葉や実を付けている木の事ですよね」
「そうだ。くりすますに、その宿り木の下で口づけをすると…永遠に結ばれると言う言い伝えがあるらしい」
「……」
(木の下で、口づけを……)
思わず無言になり、小さく俯く。
なんだ、その砂糖を吐くほど甘い話は。
いかにも女の子が好きそうな…そんな夢見がちな言い伝えで。
でも…
もし美依と言い伝えを実行したなら。
俺と美依は結ばれるという意味にならないだろうか。
それはすなわち、想いを伝える事と同じになる。
……それ、俺に出来るのか?
思わず考え込んでいると。
光秀さんがくくっと笑ったような声が聞こえ、不意に顔を覗き込まれた。
「家康、何を考えていた?」
「べ、別に何も…」
「美依は何故この話をお前に言うのを躊躇ったのだろうな?」
「……知りませんよ、そんな事」
「おや、そうなのか?」
「失礼します」
いつまでもこの人と話していたら、腹の底まで覗かれそうなので。
俺は話を切り上げ、光秀さんに背を向けた。
でも、本当に今は腹をのぞかれたら困る。
そのくらい…
美依の事を考えてしまっているからだ。
(美依、なんで俺に言えなかったの?)
あの照れたような、恥ずかしがるような。
赤い顔をしていたあの子を思い出す。
俺に言えなかったのは…
言いたくなかったとかじゃなく、俺を意識しているから、言いにくかったのではないか。
そんな自分都合の考えが浮かび、思わず顔が火照った。
────それはつまり
美依は少しは俺の事を……
(なんだこれ、すごい恥ずかしい)
嬉しいはずなのに、めちゃくちゃ照れる。
俺は御殿への帰途につきながら…
逸る心臓を、何回も手で押さえたのだった。