第15章 【戦国Xmas】徳川家康編《前編》
「……何、赤くなってるの」
「な、なんでもない」
「素敵な言い伝えって?」
「え、えぇと……」
そこまで言うと、美依は俯いて口ごもってしまった。
『素敵な言い伝え』はそんなに言いにくい事なのか、思わず頭に疑問符が浮かぶ。
(しかもなんで赤くなるんだ?)
余計に理由が聞きたくなり…
俺は思わず美依に少し詰め寄り、顔を近づけた。
「教えて、素敵な言い伝え」
「あ、あの…」
「言いにくい事なの?」
「い、いえや、近っ…」
「おや、こんな場所で逢引か?」
すると、その時背後から声が聞こえ…
その声に反応するように、美依の視線が俺ではなく、俺の後ろに向けられた。
「光秀さん!」
美依の言葉に振り返ってみれば。
いつに間に来たのか、光秀さんがこちらを見て、相変わらずの底知れぬ笑みを浮かべていた。
「光秀さん…逢引じゃないです」
「随分仲睦まじく見えるが、いつ恋仲になったんだ?」
「こ、恋仲じゃないですよ、私達!」
美依が慌てた様子で反論する。
…そんな即座に言われると、ちょっと傷つくな。
確かに俺の一方的な片想いであって、美依の気持ちなんてさっぱり解らない。
だから傷つくなんて、お門違いだろうが…
こんなにきっぱり否定されると、何の意識もされていないのかな…なんて少し寂しくなった。
「美依、家康にも教えてやれ。言い伝えとやらを」
「え…」
「俺にはあっさり言っただろう?」
「……っ」
「…光秀さんは知ってるんですか」
どうやら話は聞かれてしまっていたらしい。
しかも、光秀さんにはあっさり言ったとか何とか…
俺に言えないような事なのか?
少し面白くなくて、ムッとなる。
何故、俺には言いたくないのだろう。
そんな事を思っていると…
「わ、私、用事を思い出したから、もう行くね!またね、家康!」
美依が明らかに不自然に話を逸らし、俺と光秀さんの間をすり抜けて、ぱたぱたと走って行ってしまった。
……なんだ、あれ。
そう思っていると、その後ろ姿を見ながら、光秀さんがくっくっと笑い…
俺に視線を移しながら、意地悪く瞳を細めた。