第13章 【現代パロディXmas】石田三成編《前編》
────でも、聖夜に奇跡は舞い降りる
まさか、今年のクリスマスに『あんな出来事』が起こるなんて…
私はその時、まだ知る由もなかった。
それは私を見かねた神様が、手を差し伸べたのか。
私にとって、忘れられない一夜になる。
『菫色の堕天使』が微笑んで──……
私を妖しくも甘美な世界に、誘う事になるのだ。
*****
「え…資料を作り直し?!」
その日の夕方。
困り顔の先輩を目の前に、私もまたびっくりした声を上げた。
先輩が、言いにくそうに言ってくれた話。
それは資料を部長に見せたところ、内容が薄いから一から作り直せ…と頭ごなしに言われてしまったという事だった。
「明日のプレゼンを考えても、部長は敵に回したくないのが現実ですが…」
「そう、ですよね……」
「しかし、今から作り直して間に合うか解りません。やっぱりもう一回私が掛け合ってきますね」
三成先輩は困り顔のまま、少し笑んだ。
困らせている、この人を。
私がダメな資料を作ったばっかりに…
そう思ったら、自然と言葉が出ていた。
「大丈夫です、今から作り直しますね!」
「しかし……」
「すぐに取り掛かれば、きっと間に合いますよ。先輩に迷惑かけられません、私がいけないのに」
「しかし、貴女はもう帰る時間でしょう。私もこれから用事があるから手伝えませんし。無理なら無理と言ってください」
(優しいなぁ、先輩…)
本当に心配してくれているのだなと、心がきゅんと甘く疼く。
正直、明日までに間に合うか疑問だが…
それでも、先輩には迷惑かけたくない。
だったら徹夜してでも、終わらせるしかない。
私は心の本音を隠し…
先輩に向かって明るく言った。
「大丈夫ですよ、任せてください!」
すると、先輩は少し面食らったように、目をぱちくりとさせ。
やがて、ふっと笑い、私の肩に手を置いた。
「じゃあ、お願いします」
「はいっ!」
「ですが、無理は駄目ですよ?」
「しませんから、大丈夫です」
ごめんなさい、無理しなきゃ終わりません。
心の中で、そっと呟く。
でも先輩に迷惑がかかるよりマシだから。
また本音を隠し、笑みを返したのだった。