第10章 【童話パロディ】シンデレラ《後編》/ 豊臣秀吉
「これを、履いてみてはくれないか?」
「……っ」
「────頼む」
「は、はい……」
美依は緊張した様子で、その硝子の靴に足を通した。
すると──……
コトン……
その小さな足は、ぴったりと硝子の靴にはまった。
それを見て、秀吉王子は目を見開く。
────次の瞬間
『己が導くままに、曝け出せ。本当のお前の姿を。信じていれば、夢は必ず叶う。今この心優しき娘に、奇跡と幸福の再来を──……』
いつしか聞いた、甘く低い声が聞こえ。
美依は銀の光に包まれた。
そして。
ふわりっ……
「……っ!」
光が消えた後には──……
オパール・グリーンのドレスを身に纏う、あの夜の姫の姿があった。
「お前、は……」
秀吉はゆっくり立ち上がり、掠れた声を出す。
そして、両手で姫の頬を包み込んだ。
二人の視線が絡み合う。
まるで、あの夜のように。
「お前が……そうだったんだな」
「……はいっ……」
「今度こそ、名を聞かせてくれ」
「美依、です……」
「美依……」
ようやく、名を呼べた。
今目の前に居るのは……
夢でもなんでもない、本物。
心に思い描いた、たった一人の、
「ようやく見つけた。俺だけのお姫様──……」
────その時、銀の柔らかい風が凪いだ
あの日、強く惹かれ合いながらも、離れ離れになった二人。
運命の出会いだと。
目が合った瞬間に、恋に落ちた。
心が導くままに触れ合い、そして。
魔法が解けることを恐れて逃げ出した姫。
それでも、心は繋がっていた。
信じていれば、夢は必ず叶う。
誰しも真の愛に出会う資格がある。
魔法使いの言った通り……
姿形など関係なく、誰もが皆、真の愛に巡り会えるのだ。
そう、信じていれば────…………
王子は美依の唇を、今度こそ塞ぐ。
もう離れられない鎖に囚われたように。
二人抱き合う長い影が、いつまでも庭に伸びていたのだった。
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