第10章 【童話パロディ】シンデレラ《後編》/ 豊臣秀吉
「────…………!!」
それは、美依を夢の世界から現実に引き戻す、鐘の音だった。
12時を過ぎれば、魔法が解けてしまう。
魔法使いと約束をした。
12時を過ぎるまでに城を出る事を。
つまり、鐘が鳴り止んだら──……
『ワタシハ、ミスボラシイ、タダノムスメニ』
「帰らなきゃ……」
「え?」
「王子様、ごめんなさいっ……!」
あと数センチで唇が触れ合う刹那、私はぐいっと王子の身体を押し返した。
そして、一度頭を下げ……
背を向けて、一目散に駆け出した。
「姫……?!」
秀吉王子の戸惑う声が聞こえたが、それは無視して。
軋む心も無視して、ひたすらに足を動かす。
一瞬、馬鹿な事を考えてしまったと。
こうして王子が優しくしてくれるのは、着飾った自分だからだ。
もし、元の自分に戻ってしまったら……
王子はきっと、こんなには触れてくれない。
心には、そんな思いが渦巻いて……
切れそうなくらい、痛かった。
「姫、待てっ…姫っ……!」
秀吉王子は追いかけてくる。
何度も私を呼んで、私を求めて。
ごめんなさい。
ごめんなさい、王子様。
私はもう傍には居られません。
魔法が解けてしまうから。
魔法が解けたら、私はただのみすぼらしい娘。
王子が想ってくれる女の子ではないのだ。
『ココロガイタイ、ナキソウナホド』
「姫、待ってくれ、姫っ……!」
前の階段を降りる娘を、秀吉王子はひたすらに追いかけた。
だが、何かの魔法のように風の速さで走り去る娘に、王子は追いつくことが出来ず……
階段の途中まで降りた所で、娘の姿は見えなくなってしまった。
秀吉王子は落胆の色を隠せない。
やっと…やっと運命的に惹かれる娘に出会ったのに。
「なんで、いきなり逃げたんだ……?」
先程まで触れていた唇が疼く。
確かにこの唇で、あの雪のような肌に触れ、温もりを感じ……
そして、その先も…と。
浅ましいくらいの熱情が、この心には渦巻いていたと言うのに。