第9章 【童話パロディ】シンデレラ《前編》/ 豊臣秀吉
「秀吉さんが娘達を相手にしないから、俺や政宗さんのとこに群がってくるじゃないですか。あんたもちゃんと相手してくださいよ」
「そうだぞ、秀吉。お前のための舞踏会だぞ?」
「そんな事言ったって俺は……」
秀吉王子は、薄茶の瞳を曇らせ……
ぽつりと、でも頑なに呟く。
「運命で決められた女じゃなきゃ嫌なんだ」
その言葉を聞き、政宗王子は『やれやれ』と呆れたようにため息をつき、上着の詰め襟をぷつりと外して緩めた。
そして、何度言ったか解らないその台詞を、今一度秀吉王子に言おうとした。
────その時だった
「すみません、遅くなってしまって……!」
舞踏会会場に姿を現した、一人の娘に、その場にいる全員が釘付けになった。
華奢な身体をオパール・グリーンの輝くようなドレスで包み、波打つ艶やかな髪と、真っ白な肌、薔薇色の頬。
くりくりと愛らしい、黒真珠の瞳に桜色の唇。
その見事なまでに美しい姫君に、秀吉王子も政宗王子も家康王子も…皆声を出すことが出来ない。
「……」
その時、真っ先に動いたのは秀吉王子だった。
瞬きもせずに、娘に近寄り……
その小さな手を、優しく取った。
「ようこそ、俺の舞踏会へ」
「王子様……?」
「名前はなんて言うんだ?」
「え、えぇと…名乗る名前なんて、ありません」
娘は恥ずかしそうに、小さく俯く。
だがその可愛らしい仕草と謙虚な言葉が、王子の心を射止めたようだった。
秀吉王子は、そのまますっと跪く。
そして、娘の手の甲に唇を押し当て……
囁くような、甘い声色で言った。
「姫、俺と踊ってくれないか────…………?」
────こうして、二人は運命的な出会いを果たした
美しく心の優しい娘、美依。
運命で決められた娘を探す王子、秀吉。
二人は出会った瞬間から恋に落ちた。
ひと目で、お互いが運命の相手だと。
そう直感したのだ。
『誰しも真の愛に出会う資格がある』
魔法使いが言った言葉は真実になるのか?
それはこれから廻る物語。
強い運命で結ばれた二人の、純な愛の物語。