第8章 【Twitter企画】淡紅姫-泡沫に燃ゆる-/ 豊臣秀吉
障子の隙間から、秋風が入り込む。
それは火照った肌を撫で、澱んだ空気を綺麗に拭い去っていく。
────俺の心も、綺麗に拭えたらいいのに
そんな事を考えながら、いつしか意識は霞んでいった。
そして、いつものように……
美依が可愛く笑って、俺の名前を呼ぶ。
そんな儚い夢を見ていた。
*****
(美味そうな柿だ、美依に持って行ってやろう)
そんな、ある日の風が冷たい晩。
俺は貰い物の柿を手に、城の美依の部屋に向かっていた。
今の季節は果物が美味い。
女は果物が好きだ、だからきっと美依も喜ぶだろう。
そんな風に少し心を浮つかせながら、足を早める。
今は大丈夫だ、普通に接しられる。
美依の前だと、どうしても自分を良く見せようという意識が働くらしい。
『優しい兄貴』、きっとそれが『俺』。
────そんな建前を振りかざさなきゃ、
俺はきっと、大好きな美依に嫌われてしまうから
「あっ…はぁっ……」
(ん……?)
やがて美依の部屋の前まで来て、そのまま襖を開けようとして…
なんだか部屋から、やたら艶めかし声が聞こえた気がして、俺は開ける手を止めた。
なんだ、今の…美依?
思わず、ちゃんと聞こうと耳を澄ます。
すると──……
「ぁっあっ…!んぅ…んっんっはぁっ…あ……」
またしても部屋から聞こえてきた、悩ましい声。
苦しいとか、そんな風にも聞こえなくはないが、どちらかと言うと…
快感に悶えているような、甘美な喘ぎ声に近い。
ドクンッ……
それを頭で考え、心臓が大きく脈を打った。
なんだ、この声…美依なのか?
なんで、そんな色っぽい声を上げてるんだ…?
様々な疑問が頭から湧き出て、同時に身体が微妙に熱を帯び始める。
思わず息が上がり、口元を手で隠すが。
次々に部屋から漏れ出てくる、その甘い嬌声。
それが耳に入る度、馬鹿みたいに背筋がぞくりと疼いた。
(美依、何やってんだ…?)
頭の中が湧き始めるが、必死にそれを堪え、襖に再度手を掛ける。
そして、少しだけ。
中を確かめたくて、ほんの一寸だけ襖を開いた。