第1章 1
泣く女を見て、柄にもなくうろたえた。
じっと見られていたのは、ずっと前から知っていた。それこそ、入部してすぐと言うころから慣れ親しんだ視線だ。
それは遅れることなく俺の動きを追い、俺の動きだけを追い、そして俺のことを何もかも覚えていった。
そして、いつの間にか視線は俺の動きを予測し、俺は俺の打った球筋、ラケットの動きさえも完璧に捉えられている感覚を覚えるようになった。
不思議と悪い気はしなかった。
それこそストーカーだ何だと凡人なら言ってしまうところだろう。
俺自身、ただ見られているだけならそんな視線など一月待たずに排除していたと思う。
そうしなかったのは、その視線が、俺のどんな成長にも、あるいは変化にも、寄り添うようについてきたからだ。
それはまるで、自分の影のように。
お互いのことなら何でも分かっていると、口には出さなくても理解しあっている存在のように、いつしか俺はその視線を捉えるようになった。
試合を見に来るわけでもない、ただ学内での練習の時は欠かさずついてくる、正体のわからないその視線。
俺は敢えて視線の正体を捜そうとはしなかったし、それがいいという根拠のない確信を持っていた。
既に十分すぎるくらい理解しあっていると言う感覚を覚えていたからかもしれないし、あるいは探してはいけないと、どこかで分かっていたのかもしれない。
理由はいまだに分からない。ただ、今は、その確信は正しかったと言う虚しい感想ばかりが胸に苦く湧き出している。
今日、いつものようについてきていた視線が、不意に途切れたりしなければ。俺達はあのまま、不安定でも確実な関係のままでいられただろうか。