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「君にいかで」「我も人も」「我が恋は」

第1章 暗闇の中でも


高杉side

「おい」
声をかけたが返事は無く、静かな寝息が聞こえる。
寝顔は幼い子供のようにあどけなく、先程まで見せていた艶っぽさは消えている。
起こさぬように、そっと指でなぞる。
数本の髪が貼り付いた額、閉じたまぶた、ふっくらした頬、紅が取れてもほんのり赤い唇、細い首、柔らかく感度の良い胸、しなやかに動く腰、すんなり伸びた足、鼻緒の痕は微かに赤い。
無理をさせているのは、承知の上だ。
月の灯りは、雲の隙間からまだらに届き、の体に線を描く。
何故暗闇でも分かるのかと、聞かれたが。
理由は分からねぇ。ただ…。
どんな暗闇でも、の姿は見える。
宇宙の闇の中でも、敵のか味方のか、それとも己のかも区別出来ぬ程の血にまみれても、この女の姿は見えるのだ。
失った左目が最後に写したのは、銀時の悲しそうな顔だった。
残った右目が最後に写すのは、一体何だろうか。
それが、どんなものでも、そこが、どんな場所でも、きっと…閉じたまぶたに写るのは、の笑顔だろう。
それが何故なのか、それをなんと呼ぶのかは、先生にも教わらなかった。
半身を起こし、足元に畳まれたままの布団を掛けてやる。
ポンポンと軽く叩くと、微かに身動ぎしたが、寝息は穏やかなままだ。
そろそろ行かねばならない。
今回はあまり時間が取れなかった。それでつい、すぐに来いと言った。
鼻緒が擦れる程、走らせてしまうくらい。
そっと、眠るの額に唇を付ける。
「…愛してる」
まったく。
静かに立ち上がり、部屋を出る。
「ざまぁねぇな」
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