第1章 暗闇の中でも
ヒロインside
晋助は、出て行ったようだ。
私はずいぶん、狸寝入りが上手くなった。
掛けられた布団を握りしめる。
別れの挨拶は、お互い苦手だ。
今度はいつ会う、連絡する、そんな当たり前の言葉が言えないなら、それはもう別れですらない。ただの終わりだ。
だから、何百回「愛してる」と言われるより1回でも多く「ただいま」と言われたい。
それで良いのに。
まったく。
部屋に残った煙管の匂いを吸い込んだ。
「小唄都々逸何でも出来てお約束だけ出来ぬ方」
最近聞いた都々逸を口ずさんむ。
聞いていたのは、東に傾きかけた月だけだ。