第48章 嫌疑と再会
「あ、あの…」
振り返ると、そこにいたのは書類を抱えた兵士だった。
「あれ?君、確か名前ってクレア・トート…だったっけ??」
「…え?」
何故この兵士は自分の名前を知っているのだろうか。
ジャケットの紋章を見ると、この兵士は憲兵団の兵士の様だった。
「驚かせてごめん…君、昨日審議にかけられてただろ?俺も審議所内にいたから、顔と名前は覚えてたんだ。」
「あ、そうだったんですね…あの、そうです…私は調査兵団の102期、クレア・トートと申します。」
「そっか、ここで何してるの?もしかして何か取ろうとしてた?」
両手の塞がっているその憲兵団の兵士は、シンクの上の開いた食器棚に視線を向けてクレアに問いかける。
「は、はい…部屋で待機している上官に紅茶を淹れようと思ったのですが…その…届かなくて…」
「そうだったのか、ちょっと待ってな…よっと…」
その兵士は重そうな書類の束を一瞬片手で抱えると、空いた手を伸ばして紅茶の缶を取ってやった。
「ほらよ、これだろ?ティーセットは下の棚だから大丈夫だよな?」
「あ、ありがとうございました…」
「これくらいお安いご用だよ。じゃあね。」
そう言ってクレアに軽く手を振ると、その兵士は再び書類を両手で抱えて給湯室から去って行った。
「…………」
あんな気さくな憲兵もいるのかとクレアは驚き、しばらくポカンと立ち尽くしてしまう。
年齢はモブリットと同じくらいだろうか…
昨日審議所内にいたと言う事は、きっと憲兵団の中でも幹部クラスに所属している兵士か、またはその副官とかだろう。
今まで憲兵団の兵士に対してあまり良い印象がなかったクレアだったが、中には優しい兵士もいるのかと思うと少し救われる。
せっかくだから名前を聞いておけばよかったと、少し残念に思いながらもクレアは棚からティーセットを出し、急いで紅茶の準備を始めた。