第46章 巣立つ想いと、残る想い
この言葉に隠されたハンジの想いとはいったい何なのだろうか…
ハンジは自身へ向けている慕情は捨てて、今は自分の中でモヤモヤとしている気持ちに向き合えと言ってるのだろうか…
タリアへの想いに…向き合えと…
そんな風に都合良く解釈しても、果たして自分は許されるのだろうか…
長い事敬愛と共に慕い続けたこの想いを、他に向けても、それは許される事なのだろうか…
すると月明かりを眺めながら酒を飲んでいたハンジが、チラリと視線だけをモブリットに向けた。
「すまなかったな…長い事モブリットの優しさに甘えて色々とこき使ってしまって。いや、あれはもう完全に丁稚扱いだったな…」
少し気不味そうに自虐的な笑みをこぼすハンジ。
「そ、そんなことは決して…!」
なんだかその自虐的な笑みが儚くて思わず否定をしてしまう。
「いいんだ…事実だしな。ねぇ…モブリット?」
「は、はい?!」
「もし、モブリットが人生に悔いの残らない何かと向き合っても、君は私の副官として働いてくれるか?」
「………」
月明かりに照らされたハンジは、気不味い想いを悟られたくないのか、顔半分を月に向けて視線だけでモブリットの様子を伺う。
何を言ってるんだこの人は…
自分はこの目の前にいるあなたに忠誠を誓い敬愛を貫くと決めているのだ。
他でもない、あなたに…
「そ、そんなの…当たり前じゃないですか…」
「そうか…」
「私があなたの副官辞めたら、燃料切れを起こした時にベッドまで運んで来るのはいったい誰ですか?クレアでは無理ですし、きっとリヴァイ兵長だってお風呂に入らないあなたを抱えて運ぶのは嫌だと断られるはずです。それに、翌日お説教をする人だっていません。クレアは厳しい所もありますが、少し甘い所もありますから任せられませんしね。」
モブリットのくどくどとした説明を聞くと、ハンジは少し安心した様にクスリと笑った。