第46章 巣立つ想いと、残る想い
本人の口から聞かなくてもハッキリと感じ取ることのできた分隊長の気持ち。
やはり、“想いを伝えない”という選択肢は間違っていなかった。お互いに意思の疎通をはかった訳ではないが、分隊長はやはり自分の想いに気づいていながらも、気づいてないフリをしていた。
それと同時に分隊長が自分に…否…全ての異性に対して恋愛感情を持っていない事も十分過ぎるほど分かった。
分隊長の想いも、気持ちも分かったのなら次に向き合わなければならないのは自分自身の気持ちだ。
モブリットはまた一口、酒を煽ると他愛もない話をしながら心の中で自問自答をする。
モブリットは昨年の冬にタリアというハンジにそっくりな娼婦と出会った。
ハンジへの恋慕の想いを拗らせてしまっていたモブリットは、なんの運命か彼女の客として男女の仲となる。
ハンジへの想いを狂おしい程に抱いたモブリットをタリアは優しく受け止め、いつだって慰めとなってくれた。
しかし、その年の夏にモブリットは彼女の優しい気遣いからか、タリアをハンジと重ねて見る事ができなくなってしまったのだ。
足繁く通い、ずっと彼女をハンジと重ねて欲望を吐き出していたにも関わらずだ。
タリアと出会って間もなく1年がたとうとしている。
何故彼女をハンジと重ねる事が出来なくなったのか、モブリットは知りたかったのだ。
モヤモヤとこの胸の中ですっきりとしない気持ちの正体をハッキリとさせたかった。
だからここに来たのだ。
モブリットは空になったハンジのグラスに再び酒を贅沢にたっぷりと注ぐ。
「今日は大盤振る舞いじゃないか?何かいい事でもあった??」
「そんなんじゃ、ありませんよ。ハイ、どうぞ。」
差し出されたグラスの酒をこぼさぬ様に慎重に口元まで持っていくと、グイッと豪快に流し込むハンジ。
アルコール度数の高いこの酒をガブガブと飲んでしまえるのはおそらくはハンジくらいであろう。