第44章 その奇行種、舞姫
「はぁ……」
無事に曲が終わると、やれやれと言わんばかりにリヴァイはクレアと飲んでいたテーブルまで戻ろうとしたが、次の瞬間予想もしていなかった展開が起こる。
ーパッパッパッ、パラッパッパッパッ!ー
「はぁ?!」
突然ヴィオラを演奏していた楽士がトランペットに楽器を持ちかえると、楽隊はワルツとは全く異なる曲を奏で始めた。
それは美しく奏でられる優雅なワルツとはとはガラリと変わり、何故だか攻撃的な印象を与える曲だった。
リヴァイはこんな曲は今までの人生で聴いたことがない。
オイオイオイオイ……
ダンスは1曲で終わりじゃねぇのかよ……
楽隊の様子をチラリと伺うが演奏を止める気はなさそうだ。
攻撃的な曲調で行進曲のようなリズムも感じ取れるが、なにせ初めて聴いた曲だ。
いくら人類最強の兵士長といえど、聴いたこともない曲を踊れるわけなどない。
どうしたらいいと呆然としていたら、クレアがリヴァイの右手をグッと握り、左の脇の下から腕を入れ背中をがっちりホールドしてきた。
何をする気だ奇行種…
これでは男女逆の組み方だ。
もう訳が分からずクレアの顔を見ると、クレアはサディスティックな笑みでリヴァイを見つめ、ニッと口角を上げた。
この表情は立体機動で飛ぶ時の…そう、頭のネジが1本外れた様な飛び方をする時の好戦的な表情だった。
その表情に思わずドクンと心臓が高鳴る。
いったい何が起こるんだ……
すると、クレアはリヴァイをリードするようにステップを踏み、音楽に合わせて勇ましく踊り始めた。
リヴァイは訳が分からぬままクレアに合わせるようにステップを踏み、ついていくしかなかった。
リヴァイは強いテンポの曲に合わせるように回転させられ、引っ張られ、突き飛ばすように回されたと思ったらまたクレアに引っ張られホールドさせられる。
そう…クレアはまさに今、男役でリードを取りながら男女逆転でリヴァイと踊っていたのだ。