第44章 その奇行種、舞姫
客達の歓声の中、クレアは右手にタンバリンを持ち、左手でスカートの裾をちょこんと持つと音楽に合わせる様に華麗なステップで踊り出した。
ータンッー
ータンッー
ーシャランッー
右手に持っているタンバリンを肩や肘、膝、腰で叩き、そしてくるっと回りながら後ろに蹴り上げた脚でも叩く。
全身の色んな部分を使って軽快に叩く姿はとても可憐だ。
くるりと回ればスカートがフワリと広がり、高く脚を上げてタンバリンを蹴り上げれば際どく下着が見えそうで男達はたちまち釘付けになってしまう。
そして、キラキラと眩しい笑顔を振りまいたかと思えば、曲のトーンに合わせてなだらかに妖艶な視線にも早変わりするため、男の客はそんなクレアの魅力にみるみると心奪われていった。
それは悪戯に笑う駒鳥の様に…
それは気紛れに誘う猫の様に…
幼い少女の仮面の裏に隠された魅惑的な仕草をチラチらと見せつけながら、今度は客席を回り踊り出した。
男を誘うような踊りに、つい手を出しそうになった客がいれば、“お断りよ”とばかりにタンバリンで頭を叩く。そんな振る舞いに皆手を叩き笑い転げた。
「あれがクレアなのか…?」
そんな中、ただただ唖然となってしまうのは調査兵団の男達。
「クレアにあんな特技があったとは…信じられません…分隊長はご存知だったんですか?」
「アハ、いやぁ…正直あそこまでスゴイとは思わなかった…アハハハ…」
「おい…その言い方だと楽隊を呼んだのはお前かハンジ!それにクレアのグラスにお前か酒を混ぜてたのも見てたぞ、いったい何が目的なんだ?」
リヴァイが睨み上げながら問いかけるとハンジは“バレたか”とばかりに白状した。
「ま、バレちゃあしょうがない…確かにあの楽隊を呼んだのは私だよ。それに…アハハ…酒混ぜたのもバレてた?」
「あったりめーだろ。全然中身が減らない上に酔っ払うからおかしいと思ったら案の定だ。どうしてくれんだよ。」
「どうもこうもないよ…それに目的って程大層なものもない。ただ私はさ…きっかけなんてなんでもいいからクレアに楽しく笑って欲しかったんだよ…」
そう言って大きなジョッキに残った最後の一口を煽ると、ハンジはまた店員を呼びつけ追加注文をした。