第44章 その奇行種、舞姫
ちょうど酒も会話も盛り上がってきた頃、店の入り口がなんだか騒がしくなってることにエルヴィン達は気づく。
「…なんだ?楽隊か?」
「そ、そうみたいですね。」
エルヴィンが入り口の方をみると、身なりのいい男女がヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、アコーディオン、そして打楽器をもってゾロゾロと入ってきた。
飲み屋の様な場所では時折店主が流行りの楽隊を呼んだりして場の雰囲気を盛り上げたりする事がある。
また反対に客側があらかじめ金を払って人気の踊り子や道化師、手品師なんかを呼んだりする事もある。
今日は店主が呼んだのか、客が呼んだのかは不明だったが、偶然にも楽隊が呼ばれていた様だ。
「それにしてもヤケに身なりのいい楽隊だな。シーナの貴族の屋敷に出入りしてそうな出で立ちだ。」
「そうですね…曲はクラシックでしょうか…」
すると、カウンター席の内側にいた店主がパンパンと手を叩いて客の注目を集めた。
「おーい!今日はお客さんが楽隊を招待してくれたぞ!!楽しく歌うもよし踊るもよし!せいぜい盛り上がってくれ〜!酒の追加もドンドン頼むぜ!!」
店主の威勢のいい掛け声に店の客たちも歓声を上げて盛り上げた。
店主の話だと今日の楽隊は客側からの招待だったようだ。
「ハンジさんすごい!!私楽隊なんて初めてです!!」
「え?そうだったの?じゃあ偶然!良かったじゃん!」
キラキラと目を輝かせながらハンジの服を掴んで楽隊の奏でる曲に興奮しだしたクレアはニコニコと笑いとても楽しそうだ。
おそらくは貴族の屋敷にも出入りしている楽隊と思われるが、奏でる曲は上品で厳かなクラシックではなく、大衆の酒場でも皆が盛り上がれる様な曲ばかりだった。
客たちは、その軽快な曲調に合わせるように次から次へと酒杯を空けていく。
曲が盛り上がれば盛り上がる程酒の追加注文も入り店内は大賑わい。
店主も客の支払いで招待された楽隊によって次々に酒が売れるため、嬉しい悲鳴を上げて上機嫌だった。