第44章 その奇行種、舞姫
12月25日
あの“朝の情事事件”後、クレアはあの場にエルヴィンがいた事を知ってしまっている事実を悟られぬよう、全力で“気づいていない”演技をしてみせたのだが、演技をすればする程場の空気は気まずくなり、居合わせるハンジは堪えきれずに笑いだし、結局何もかもバレてしまうというなんとも気不味い結果となり、ここ数日のクレアは2人きりでエルヴィンと出くわさぬようコソコソと兵舎内を移動していた。
そんな中迎えた12月25日。
天気は晴天、絶好の訓練日和であった。
気温は低いがまだ雪は降っておらず、今日の訓練も通常通りに行われて、通常通りの時間に終了した。
そして時刻は午後6時半。
ハンジ達幹部はリヴァイの誕生日パーティーを開催すべく、兵門前で待ち合わせをしていた。
兵門前には既にエルヴィン、ミケ、リヴァイにモブリットが待っており、数分遅れてハンジとクレアが手を繋いで走ってやってきた。
「待たせちゃってごめんごめーん!!女の仕度は時間がかかっちゃってさ♫さぁ行こう!!」
「クレアはともかくお前が言うと気色悪ぃよクソメガネ。」
「何だよリヴァイ!これでも一応女だっつーの!」
「ハッ、ほざいてろ…」
「も、もう!兵長、ハンジさんにあんまりですよ?」
ハンジの誕生日パーティーでも思った事だが、調査兵団の幹部組が揃うとなかなかの迫力だ。
クレアはハンジ班の班員なのだから別に部外者というわけではない。
しかし、まだ2年目のクレアにとっては年の離れたベテラン幹部の迫力に緊張してしまう事もしばしばあった。
そんな幹部組に埋もれながらも一行は目的の店まで歩き出した。
そして少し歩けば街なかに店を構える調査兵団行きつけの飲み屋だ。
クレアはコートにマフラー、帽子に手袋という完全防備で出てきたのだが、寒さで手がかじかむ前に店に到着でき一安心していた。
「意外と近所だったんですね?!」
「そうそう!意外に近所!でも料理も美味しいし、値段もそこまで高くないし、酒の種類も豊富。気づいたら私達の行きつけになってたってわけ。」
「そうだったんですね…」
店内に入ると、ハンジが予め予約を入れていたためか、広めの席に案内してもらえた。