第44章 その奇行種、舞姫
ちょうどその頃、リヴァイのサインが欲しい書類が出てきてしまったエルヴィンは、兵舎の廊下を歩いていた。
この時間ならまだクレアと一緒に執務室で仕事をしているはずだ。
そう読んだエルヴィンは真っ直ぐにリヴァイの執務室まで向かったのだが、ノックをしようとした所で思わずその手を止めてしまう。
「………!?」
その扉の向こうから、まだシンと静かな早朝の兵舎に似つかわしくないやり取りが聞こえてきたのだ。
「(まっ、待って…下さい兵長……あぁん!!)」
「(勘違いさせたお前にも責任があるだろ…おとなしくしてろ…)」
「(あ…あぁ…ダメ…へ、へいちょう……)」
「(意地をはるな…“いい”の間違いだろ?)」
「(あぁ……あぁん……!)」
「はぁ……」
エルヴィンは盛大なため息をついた。
その扉の向こうではリヴァイとクレアが今まさに情事の真っ最中だったのだ。
聞き耳立てるつもりなど、これっぽっちも無かったが、バッチリとクレアの“女の声”まで聞こえてしまい、エルヴィンは思わず片手で額を覆ってしまった。
しかし、その時だった。
「あれ?執務室にいないと思ったらここにいたの?」
「!?ハンジか…どうした?」
背後から声をかけてきたのはハンジだった。
「私に用事か?」
「別に仕事の事じゃないんだ。ちょっとリヴァイの誕生日パーティーの話でもしようと思ってたんだけど…どうしたの?中入んないの?」
首を傾げてるハンジにエルヴィンは人差し指を口元に当てながら扉の方を目配せした。
「え?なになに…?」
言われるがままに息を潜めて扉に耳をやると、ハンジは吹き出すのを必死に我慢しながら腹を抱えて悶えだす。
「エルヴィン…その書類は後回しにした方が良さそうだね!!」
ハンジが目に涙を浮かべながら必死に小声で声をかけるとエルヴィンは“いかにも…”と2度目のため息をついた。
そして仕方なくエルヴィンはハンジと共に自身の執務室に戻る羽目になってしまった。
ー1時間後ー
少しずつ賑わい出してきた食堂でクレアは盛大にため息をついていた。
「はぁ………もぅ……兵長…ひどい……」
クレアはグッタリとご立腹の様だ。