第42章 鎮魂花(ちんこんか)に想いを乗せて
「…仕事が終わったらお前の部屋まで持って行こうと思っていた。」
「あの…このカギはいったいどちらの?」
「これは俺の自室のカギのスペアだ。」
「えぇ?!」
まさかの代物に驚いたクレアはそのままくるりと身体を回転させてリヴァイと向き合った。
「これは、お前が持っていろ…」
リヴァイはクレアの右手を取ると、そっとカギをその小さな手に握らせる。
「あ、あのどうしてコレを…私に?」
クレアは自室のカギを渡された理由が分からず、少し戸惑った表情でリヴァイを見上げた。
「恋人に合鍵を渡すのに理由なんかいらないだろう…と言うのも勿論だが…」
そこまで言うとリヴァイは向かい合っているクレアを正面からそっと抱きしめて続ける。
「夜、1人で眠れない時があったらいつでも俺の部屋に来い。何時だって構わない。」
「あ……」
リヴァイは同室であり親友だったフレイアを亡くしたクレアのメンタルを気遣ったのだろう。
下級兵士の相部屋は2人部屋が基本だ。
勿論訓練兵団の時の6人部屋に比べれば広いが、それでも、2人で生活していると、何かと手狭になる。
だが、その手狭の相部屋も相方がいなくなると、途端にガランと広く感じのだ。
それはそれは…不気味な程に。
その事は、前回行われた壁外調査後にアンドレの部屋を訪れた時にクレアは痛いほど理解をしていた。
そのため、リヴァイの気遣いに思わず目頭を熱くさせてしまう。
「あ…ありがとうございます、兵長。」
嬉しくて少し声が震えてしまう。
「別に眠れない時以外でも構わないぞ…」
「えと?それはどういう…?」
リヴァイの言った事にいまいちピンとこなかったクレアはポカンとしてしまった。
「はぁ、相変わらずこういう事には鈍感なヤツだな。いつでも夜這いは大歓迎という意味だ。」
「へ、よ、よばい…?!」
夜這いという言葉に顔を一気に上気させると、リヴァイは少し口角を上げて笑みをこぼした。