第42章 鎮魂花(ちんこんか)に想いを乗せて
「あ…あの…へいちょう…?」
今しがたしていた行為の激しさとはうってかわり、クレアを抱きしめる腕はとてもとても繊細で優しかった。
包み込むように抱きしめられれば、背中から伝わるリヴァイの温もりがとても心地良い。
クレアは胸元にまわされた腕にそっと手を添えると、その身をリヴァイに任せた。
「さっきは情けない事を言って…悪かったな…」
「……え?」
情けない事とは、エルドに対して何もできなかったと言ったり自身を失うのが怖くなったと言っていた事だろうか。
「そんな…私は……」
「お前の前でこんな事を言うのはいったい何度目だかな。何が人類最強だ。聞いて呆れる。」
リヴァイはクレアの耳元で自虐的に呟いた。
確かに、リヴァイは過去に何度か後ろ向きな事を自分に言った事があった。
でもそんな事、クレアが気に止めるわけがない。
「た、確かに、前にもあったかもしれませんが、そんなの事…別にいいではありませんか。」
「クレア…?」
「人類最強の兵士長も1人の人間です。私はそんな兵長に何か思ったりはしませんし、むしろ、そんな兵長を見れるのが私だけの特権なら、不謹慎ですが少し嬉しいです…」
クレアははにかみながら答えた。
「ハッ、そうかよ……」
リヴァイはクレアの言葉に安堵したような返事をすると、抱きしめていた腕に少し力を入れてうなじから香ってくるキンモクセイの香りを堪能する。
そして、このキンモクセイの香りに誓った事を思い返すと、リヴァイは再度自身の胸に刻み込んだ。
しばらくお互い無言のまま立っていたが、リヴァイが何かを思い出したかのように口を開く。
「クレア、渡しておきたい物がある。」
「え?!」
急に予想もしてなかった話題に思わず聞き返してしまう。
すると、リヴァイはジャケットの内ポケットからある物を取り出した。
「え…?!兵長…これは……」
リヴァイがクレアに差し出したもの。
それは、輪になった紐にぶら下がっているカギだった。