第42章 鎮魂花(ちんこんか)に想いを乗せて
「エルドには礼を言われたが、俺はフレイアの死に嘆くエルドに何かをしてやれた訳ではない。ただ…黙って隣で酒を飲んでやることしかできなかった…」
「…兵長…」
「それだけではない。涙を流すエルドの姿を見て、俺は少し怖くなった。壁外調査でお前を失ってしまう可能性がゼロではない未来に…」
リヴァイはクレアと結ばれた時にキンモクセイの香りに誓った。
もう迷わないと、何に変えても守ってみせると。
そのための選択は、もう二度と間違えはしないと。
その誓いは嘘ではない。
本心だ。
だが、エルドという1番身近で部下を務めてくれていた者の恋人が無惨に亡くなる姿を目の当たりにしたら、リヴァイのその決心が、ほんの微かだが揺れてしまった様だ。
「あ、あの!私……」
クレアはそんな事はないと、声をかけてやりたかったが、そんな気休めにもならない不確実な言葉など言うべきではないと、すんでのところで口にするのを止めた。
「…悪い。こんな事、お前に話すべきではなかったな。」
「兵長…」
「はぁ…どうかしていた。今のは忘れろ。その代わりに……」
「生きて再会できた事を確認させてくれ。」
ーガタンッー
握っていたクレアの両手をさらに強く引けば、バランスを崩したクレアは、イスにかけたリヴァイに跨がる様に座り込んでしまう。
「あっ……」
急に2人の距離が縮まりドキンと心臓が跳ね上がる。
そうだ、冷静になれ…まだ起こってもいない未来を危惧しても仕方がない。現実に、今自分とクレアは生きて壁外調査から帰還したのだ。
まだ起こってもいない未来に怯え嘆く時間があるのならば、1秒でも早く、1秒でも長く、愛しい相手との再会の喜びを確認するのが先だ。
今生きて、此処にいる意味を考えろ
これは自分が新兵に向かって言い放った言葉だ。
滑稽な事に、その言葉は巡りに巡って自分の元に戻ってきた。
「クレア…無事で良かった…」
今生きて此処にいる意味……
それは、こうしてお互いの無事を確認し合うため。
リヴァイはそっと顔を近づけると、クレアの唇に触れるだけのキスをした。