第42章 鎮魂花(ちんこんか)に想いを乗せて
フレイアにアンドレにリリアンだけではない。
今まで救えなかった全ての命に安らかな眠を…迷うことなき魂の浄化を心から願う。
目を閉じ、一生懸命に願う健気なクレアの姿に、ハンジはその小さな肩を抱き寄せた。
どれくらい目を閉じて願ったいただろうか……
心の中で自身と向き合い、想いの限りを願った。
「………………」
想いの限りを願うと、クレアはスッと目を開ける。
隣には優しく微笑むハンジの姿。
目の前に広がるのはシオンの花畑。
「……あれ………」
自身の気持ちに整理がついたからだろうか。
その花畑の景色は先程よりほんの少しだけだが澄んで、明るく見える気がした。
そして胸の辺りに手をあてると、モヤモヤとつかえていたものがスッキリとなくなっている。
「どう?クレア?ちゃんと想いは送れたかな?」
「はい、ちゃんと送れたと思います。」
クレアは胸に手を当てたまま深呼吸をして見せた。
「うん…いい顔に戻ってる。良かった。」
ハンジは安堵しながらクレアの頭を撫でる。
クレアもニコリと笑顔をハンジに見せると、その場にすっと両膝をついた。
「クレア?」
「せっかくなので、摘んで帰ります。この…素敵な鎮魂花を…」
「鎮魂花…か。いい響きだ…」
両手いっぱいにシオンの花を摘むとクレアはハンジと向き合う様に立ち上がった。
「ハンジさん…色々とご心配とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした…昨日は勿論ですが…あの…先程は取り乱してしまい…」
「アハハハ、もういいよ!あっ…でもクレアにバカって言われたのはちょっとショックだったかな〜?これでも私は分隊長で一応上官なんだぞ?」
ハンジは意地悪な笑みを浮かべると軽くクレアの頬をつまんだ。
「ほ、ほんろり、ふみまへんれした……」
上官相手に暴言など、本来なら始末書、ヘタすれば処分だ。
しかし、そこは笑って許してもらえるのが奇行種クレアであり、笑って許してしまうのがハンジなのだ。