第41章 奇行種の瞳が映したモノ
「ゔぅ……うぅ………」
ボタボタと涙が膝に置いていた両拳を濡らすと、クレアは両手を広げて自分の手のひらを見た。
この小さな手の中には幼少期から人の命を救うために、今は亡き父親から仕込まれた技術が沢山つまっているはずだった。
傷口の縫合、創傷の処置、手術の助手、点滴、心肺蘇生…それは、数え切れない程に…
しかし、今涙で歪んで見えているこの両手は、大切な親友の命を救えなかっただけでは無く、死にゆく時まで苦しめていたのかもしれないと思うと、クレアは悔しさとやるせない気持ちがついに爆発してしまった。
「あぁぁぁぁぁ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
声の限り泣き叫び、泣き崩れ、自身のこの両手を恨んでも、もうフレイアは苦痛と共に息を引き取ってしまったのだ。
今になって安らかな死で看取ってやりたかったと思ってももう遅いのだ。
クレアはもう分からなかった。
自身の判断も、結果も、己の力も…全て、何もかも分からなくなってしまった。
「あぁぁぁぁぁぁぁ……あぁぁぁ…!」
ベッドにうずくまり、何度も何度も拳で布団を叩きながら泣き続ける。
我慢に我慢をし続けたこの悲しみの涙は、全く止まってくれそうになかった。
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「はぁ………」
リヴァイは幹部会議を終えると、クレアのいる女子棟に向かって歩いていた。
フレイアが死んで、エルドが泣き崩れると、タイミング悪くクレアは他の班員の処置の要請が入り、行ってしまった。
すぐに追いかけたかったが、泣き崩れるエルドはフレイアの遺体からなかなか離れず、引き離すのに後からきたハンジ達を巻き込み中々の大惨事になってしまっていたのだ。
その後もなんとか憔悴してしまったエルドをフォローしながら討伐担当としての仕事をこなし、壁内へと戻ってきた。
その為、リヴァイは古城跡の拠点でフレイアの元からクレアが立ち去ってしまってから、姿を見ていなかった。
医務室にいるかと思って寄ってみたが、医師の話だともう部屋に帰したと言っていた。
そうなると、クレアの居場所は自室で間違いないだろう。
リヴァイは複雑な想いを胸にクレアの部屋まで足を運んだ。