第41章 奇行種の瞳が映したモノ
気付くとクレアは自分の部屋にいた。
「あれ…えーと…そうだ…戻ってきたんだ。」
講堂を出てからのクレアの記憶は曖昧だった。とにかく今一度よく思い出してみると、とりあえず部屋に戻ってきた後、クレアは風呂に行った様だ。
その証拠に、服は部屋着に着替えているし、真っ赤に染まった返り血もキレイに洗い流されている。
食堂に行ったかどうかは不明だが、それは今のクレアには問題ない。
今は何かを食べたい気分ではなかった。
フラフラとベッドまで行くと靴をぬぎペタンと膝をついて座りこんだ。
何もない壁を見つめたまま微動だに動くことができない。
今日は色々な事があり過ぎた…
やっとの事で1人になると、懸命に自身を奮い立たせ、蓋をしていた感情が堰を切ったように溢れ出してくる。
「リリアン…アンドレ……」
リリアンとアンドレは昨日の夕刻まで一緒に馬のたてがみを編んでいたのだ。
2人とも今日の壁外調査に臆することなく勇敢に気持ちを切り替え前を向いていた。
アンドレは討伐を得意とする優秀な兵士になれる実力を持っていた。
そしてリリアンだって、討伐補佐としての実力は十分にあったのだ。そんな自分を慕ってくれた後輩が一度に命を落としてしまった。
「…フレイア……」
それに、フレイアは今朝まで笑顔で話をしてたのだ。
この部屋で、お互いに朝帰りをした事に恥ずかしくなりジタバタと笑いあったのだ。
そのフレイアが帰らぬ人となってしまった。
「逝かないでよ…フレイア…」
いつも明るくて颯爽としていて、壁外調査では討伐補佐として活躍し、実力をつけていた。
自分より年下なのに、頼りになる姉の様に慕っていた。いつもどっちが年下なのかわからなくなる位、クレアはフレイアに助けてもらい、元気を貰っていた。
フレイアはクレアにとってかけがえのない親友だったのだ。
それなのに……
なのに……
「フレイア……イヤだよぉ…」
気付けばクレアの目からは大粒の涙が溢れていた。