第41章 奇行種の瞳が映したモノ
やはり例に漏れず、アンドレも投与後すぐに意識が朦朧としだし、瞼が重くなってきた。
もう…いよいよ別れの時だ。
クレアは強く強く手を握り、一生懸命笑顔を作ると、混濁する意識の中でアンドレがかすかに口を開いた。
「クレアさん…本当に…尊敬…してました…あり…がと…う…ござ…………ぃまし……た……」
「アンドレ…!」
アンドレはクレアへの礼を言い終えると、安らかな表情で眠るように息を引き取った。
「……………っ!!」
ここで泣いてはいけない。
絶対に泣いてはいけない。
クレアはこみ上げてくる悲しみの感情が喉元まであがってきたが、すんでの所で飲み込み、なんとか堪えた。
「クレア…大変な役を押し付けてしまってすまなかった…我々ではできぬ処置だった…」
アンドレの班長と班員が口々に礼を言った。
「い…いいえ…私は…ただ許可されている事をしたまでです。」
「そうかもしれないが、見てくれよ…アンドレ、安堵したような安らかな顔だ。きっとクレアに看取ってもらうのを心から望んでいたんだろう…。」
確かに、アンドレの顔は失血で蒼白してはいたが、目元も口元も緩く弧を描き安らかだ。
「……………」
そう言うと、班長と班員は亡骸となったアンドレを抱えて遺体の安置所まで運んでいった。
その後ろ姿を見えなくなるまで見つめていたクレア。
もう、立ち上がる気力すらなかった。
「クレア君…」
「…あ、先生……すみません…すぐに片付けを…」
「いや、今日はもう部屋に戻りなさい。」
いつもと違うクレアの様子をみて、医師は首を振り、これ以上の仕事は許可しなかった。
「あ……あの…」
真剣な表情で首を振る医師の顔を見たらもう何も言えなかった。きっと今の精神状態で手伝いをしてもかえって迷惑をかけるだけだ。
「す、すみません…」
「謝らなくていい…もし眠れなかったら医務室まで来なさい。」
「……はい。」
クレアは小さく返事をすると、素直に部屋に向かうため講堂を後にした。