第41章 奇行種の瞳が映したモノ
ようやく薬瓶を取り出して処置の準備を始めたクレアに、アンドレは少し安堵の表情を見せた。
薬液の瓶に針を刺し吸い上げる。
注射器に薬液を入れるなど、今まで生きてきた中でもう何百回としてきた行為だ。
でも今は手元が狂い、震え、なかなか思うようにうまくできない。それだけ動揺しているのだろう。
なんとか準備を終えるとクレアはアンドレの腕を出して針をピタリと当てる。
「アンドレ…この注射は個人差があるけど、早ければ投与後1〜2分で意識がボンヤリしてきてそのまま眠りにつくわ…だから何か言い残したい事があるなら言って…誰かに伝えたい事があるなら代わりに伝える事もできる…」
するとアンドレはクレアの目を見て真っ直ぐに言った。
「俺……クレアさんに出会えて、本当によかった…今まで本当にお世話になりました…」
「そ、そんな事……」
「それと、最後に見れる顔が貴方である事に…感謝をします……」
「そうじゃなくて…!!私にじゃなくて、もっと他の人に…ないの?」
「あぁ…実家の家族には…“ありがとう”と“悔いはない”と伝えてください…」
「…わかったわ。」
「それと……それと……」
苦しそうな声で必死に続けようとするアンドレだがもう限界か…
クレアはアンドレの唇に耳を近づけた。
「……リヴァイ兵長…と、“ちゃんと”、幸せに…なってくだ…さい…ね…」
周りの誰にも聞こえない様な声で囁くと、クレアの身体が思わずピクリと反応した。
「そんなクレアさんも…可愛いです……俺、ちゃんと空の上から…見てますからね……えと…あぁ……長々とすみません…もう打って下さって結構です。」
「うん…」
その言葉にズキリと胸が痛むが、もう後戻りはできない。クレアはアンドレの腕に針を刺すと、ゆっくり薬液を入れていく。
役割を終えた注射器を床に放り投げるとクレアはアンドレの手を思い切り握ってできる限りの笑顔を作った。
泣きそうな顔で作る笑顔など、不細工で気味が悪いかもしれない。
でも今のクレアにはそれができる事の精一杯だった。