第41章 奇行種の瞳が映したモノ
「フレイア!フレイア!わかる?!もうすぐにエルドさんくるから!!頑張って!!」
クレアは大声で呼びかけるが、フレイアの反応は弱々しい。
「…ハッ…ハッ…ぅ………………ん……」
だが紫色になってしまった唇を必死に震わせながら何かを言おうとしている。
「何?もう1回言って…!!」
クレアが唇に耳を近づけた。
「………も…う………ご……めん………」
「フレイア……?」
「……ハッ……ハッ……………ハッ……」
「フレイア…?!」
「……………………」
そう言い残すと、短い呼吸を何度か吐いて、再びフレイアは目を閉じてしまった。
「うそ……でしょ……」
一瞬意識を取り戻した様に見えたが、今ので全ての気力を使い果たしたのだろう。
瞼はかたく閉じ、鼓動も止まり、フレイアはエルドの到着を待つことなく息を引き取ってしまった。
「……あぁ…お願いよ……い、逝かないで……」
絞り出すような声で懇願するが、もうフレイアの心臓も呼吸も、全ての気力を使い果たしてしまった。
クレアの声はフレイアに届くことなく虚しく空(くう)を舞った。
「クレアーー!!!」
「…あ……」
クレアは声のした方に顔を上げると、それは全速力でこちらに向かってくるエルド達の姿だった。
ほんのわずかに、間に合わなかった。
「クレア!フレイアは…?!」
エルドが目線を合わせるように膝をつくと、クレアの両肩を思い切り揺すった。
「エルドさん……すみません…フレイアは…たった今、息を引き取りました……」
「…噓…だろ……」
その言葉にぐるりと周りを見ると、地面に散乱している注射器に薬瓶、重症を負ったであろう部位に布を押しあてているミケの姿。
そしてすぐ隣に横たわっているフレイアの姿は蒼白した顔に紫の唇。
その表情は苦痛に歪んでいた。