第41章 奇行種の瞳が映したモノ
「こっちだ!急いでくれ!」
「あ…あぁ。」
パドリックが叫ぶ。
エルドは全速力で走ってはいるが、現状を受け入れる事ができないのか、ただ真顔で、真正面を向きながらひたすらに脚を動かしていた。
そして、思わず一緒についてきてしまったリヴァイの心情は複雑だった。
部下の恋人が重症を負っている。
命さえ助ってくれれば、たとえフレイアが兵士として働けなくなってもエルドは、“生きていてくれさえすればいい”と安堵するだろう。
しかし、かけがいのない恋人がここで命を落とした場合、どうなるだろうか…
正直な所、リヴァイはなんて言葉をかけてやればいいのか分からなかった。
自分だって、壁外調査でクレアを失ったらどうなってしまうか分からないのだ。
クレアを失わないための選択や覚悟は迷いなく気持ちは1つであるが、失ってしまった時の事など考えたくもないし、考えた事もなかった。
だが、フレイアの状態次第では、自分も自身の今後について改めて考えなければならなくなるだろうか…そう思うと胸の奥が苦しい程に締めつけられた。
それにフレイアはエルドの恋人でもあるが、クレアの大切な同室で友人だ。
訓練兵時代の友好関係はよく知らないリヴァイだったが、あの根暗で誰も寄せ付けない雰囲気を纏っていたクレアの過去を考えると、フレイアは唯一の友人だったといっても過言ではないだろう。
そんな大切な存在を失ったとなれば、クレアの事だって心配だ。
もしフレイアが死んでしまったら、クレアはおそらくその責任を全て自分で抱え込み、自身を責め続けるだろう。
自身の無力さに嘆き、怒(いか)るだろう。
あいつはそういうヤツだ。
リヴァイは自身の考えがまとまらないままひたすらに走っていたが、パドリックが“あそこです”と指を指した。
そこにはフレイアと思われる横たわった兵士の側で、呆然と膝立ちをしているクレアがいた。