第41章 奇行種の瞳が映したモノ
「誰か!誰か、エルドさんを呼んできてください!!」
「わ、わかった…」
班員の1人が走って行くのを見届けると、クレアは荷馬車から大きな布を引っ張り出し、何重にも重ねてフレイアの切断された部分に押し当てた。
「ミケさん!!ここを、力一杯押さえてください!!お願いです!力一杯です!!」
「わかった!」
蒼白した顔に頬を近づけると微かだが自発呼吸をしている。
これだけの出血をしているのに信じられない。
心臓も弱々しくだがまだ動いている。
「……フレイア…」
でも、クレアには分かっていた。
この大怪我にこの出血の量だ…
仮にここが壁内であったとしても命を繋げるのは不可能であろうことを…クレアは悔しくも認めざるを得なかった。
でも、だからといってクレアはここで諦めたくなかった。フレイアにはエルドというかけがいのない恋人がいる。もう命を繋ぐことができなくてもせめて最後に会わせてやりたかったのだ。
だからお願いだ。間に合って欲しい。
「フレイア!!フレイア分かる?聞こえる?私よ!クレアよ!!」
「……………」
紫色になった唇が微かに震えるが、何を言おうとしているのか分からない。
脈もどんどん弱々しくなっていく。
もうなりふりかまっていられない。
クレアは医薬品の中から強心作用のある注射液を取り出すと、定められた量の2倍の量を注射器で吸い上げフレイアに投与した。
動いて!!
動いて心臓!!
お願い!
エルドさんが来るまででいいから!!
「フレイアお願い死なないで!!今エルドさんが来るから!!それまでもう少し待ってあげて!!」
クレアは必死に叫んだ。
心臓を捧げて旅立つのならば、せめて愛する人の腕の中から旅立ってほしい。
そう強く思っていたクレアは、自身の左胸の内ポケットに入っている薬を、どうしても今使う気になれなかった。
今は使うべき時ではない。
そう判断したのだ。
だからどうか、どうかこの想い、フレイアの耳に届いて!!
あと少しだけでいい!
間に合って!!
クレアは必死に呼びかけ続けた。