第41章 奇行種の瞳が映したモノ
「前に言ってたじゃないですか。壁外で怪我をしたら全力で治療をしてくれるって!クレアさんの治療、本当に容赦のない全力な治療でした!」
顔の熱が引いたアンドレはお返しとばかりにクレアに向かって笑ってみせた。
「そ、そんなぁ!」
ちょっと困ったように言い返すクレア、アンドレもしたり顔だ。
しかし、今度は急に真面目な顔になると、真剣な眼差しでクレアを見つめて続ける。
「だから…約束ですよ。もし俺が大怪我をして、クレアさんがもう助からないと判断した時は…その時は俺に宣言していた通り、“安らかに”、逝かせて下さいね。死ぬ時まで痛いのは勘弁です…本当に…約束ですよ。」
「アンドレ…」
何か言葉をかけたかったが、アンドレは少し切なげにはにかむと、クレアに背を向け持ち場まで走って行ってしまった。
…確かにアンドレに言った事は嘘偽りない真実だが、何が起こるか分からないこの壁外で改めて言われてしまうと、クレアはなんとも形容し難い不安感にかられた。
「もう…縁起でもない事言わないで…」
クレアはモヤモヤした気持ちを払拭しようと、かぶりを振りながら、広げていた医療道具をまとめだした。
早くここを片付けてガスと刃を補充しないと、遅れをとってしまう。
陣形後方にいた兵士達もほぼ到着しただろう。
そう思いながらテキパキと片付け始めたその時だった。
「…………??」
少し遠くからガヤガヤとした声が聞こえてくる。
それはだんだんと自分の方に向かってきている様だが、何かあったのだろうか。
近づいてくる複数の足音に振り返ろうとした次の瞬間。
「おい!!!クレアー!!!」
危機迫る様な低い声がクレアの名前を叫ぶように呼んだ。
「なにっ?!」
そのただならぬ雰囲気に振り返ると、こちらに向かってきていたのは長身のミケだった。
ミケは誰かを抱えている。
それを見たクレアは、全身の血液が一気に凍りつく様な錯覚に陥った。
ミケが叫ぶように自分の名前を呼んでいる。
誰かを抱えて走っている。
考えたくもない嫌な予感がクレアの脳内で暴れだした。