第41章 奇行種の瞳が映したモノ
日が傾きかけた夕刻に、気まずい空気が流れる蹄洗場……
しかし、沈黙を破ったのはリリアンだった。
「兵長、クレアさんから馬のたてがみの編み方を教えてもらっていましたが、ちょうど今終わった所なので、私達はこれで失礼致します。」
リリアンがアンドレに目配せをすると、2人で敬礼をしてからそれぞれの愛馬を馬房に戻しに行ってしまった。
2人が馬を連れて戻ってしまえば、蹄洗場にいるのはリヴァイとクレアとデイジーだけだ。
「…リリアンは確かフレイアと同じでミケ班だったよな?」
「は、はい…それがどうかしましたか…?」
「いや、フレイアと似て空気が読めるヤツだと思ってな。」
リヴァイは思わず不敵な笑が溢れた。
「そ、それは…兵長が怒ってるようなオーラを出したからではないのですか?」
「あ?俺は別に怒ってなどいない。」
そう言うと、リヴァイは黙ってクレアに背を向けて厩舎の中に入って行ってしまった。
何も言わずに行ってしまったリヴァイ。
やはりアンドレといた事が気に障ったのだろうか。
モヤモヤとしながら立ちすくんでいると、厩舎からカッポカッポと馬が歩いてくる音が聞こえてくる。
厩舎から出てきたのはリヴァイとダスゲニーだった。
「兵長?!どうしましたか?ダスゲニー、調子悪いですか?」
心配して声をかけるが、リヴァイは黙ったままダスゲニーをデイジーの隣に繋いだ。
「……俺にも教えろ。」
「…え?!」
「だから、俺にもやり方を教えろって言ってるんだ。」
「やり方とは…編み込みの、ですか?」
「だからそう言っているだろ…新兵の2人がお前に教えてもらっているのに、俺だけが教えてもらってないのは気に食わねぇ。日も傾いている。さっさと教えろ…」
「兵長…」
ソッポを向きながら、あからさまに拗ねた態度にクレアは思わずクスリと笑ってしまった。
「あ?何がおかしいんだ?」
「いいえ、何でもないです。編み込みは特に難しいものではないのですぐにできますよ。」
クレアの手本を、拗ねながらも真面目に見つめているリヴァイ。
それは滅多に見る事のできない貴重な姿だ。