第41章 奇行種の瞳が映したモノ
「ア、アンドレ?…どうしたの??馬具の点検?」
「あ、えーと…馬具の点検は終わってます。明日の準備も終わってしまったので、手持ち無沙汰でなんとなくここへ……」
「準備が終わった人は外出も許可されてるんだよ?街に用事はないの?」
「は、はい……出かけた奴もいますが、俺は特に用事はなくて…クレアさんも…俺と同じ…ですか?」
「う…うん…そんな所…かな?」
しばし沈黙する厩舎内。
あの新兵初陣後の事件からアンドレと話すのは初めてではない。
何度も会話をする機会はあった。
しかし、こんな静まり返った場所で2人きりになるのは初めてで、なんとなく会話がぎこちなくなってしまった。
でももうアレは済んだ事。
アンドレは過去に自分を襲った2人とは違い、心を入れ替え調査兵としてまた訓練に励みだしたのだ。
自分がいつまでもぎこちなくしていたらアンドレも話しづらくなってしまうだろう。
そう考えたクレアはなんとか気持ちを切り替えると、話を続けた。
「アンドレもスコールのブラシがけ?」
「いや…何となくここに来てしまっただけで……特に何も考えてませんでした。」
「……そしたら、スコールのたてがみの編み込み、やってみる?」
「え?たてがみの編み込み…ですか?」
「そう、編み込みは貴族の馬車とかを引く馬の正装だから、壁外調査に出る馬にはわざわざ編み込む必要はないんだけど……何もすることないなら、やってみる?きっとスコール、かっこよくなるよ。」
「は、はい!是非教えて下さい!」
優しく微笑みながら提案するクレアに、アンドレは二つ返事で答えた。
「そしたら私がデイジーでお手本見せるから、蹄洗場まで出そうか。」
「分かりました!」
2人はそれぞれの愛馬を蹄洗場まで連れて行くと、隣同士に繋いだ。
以前馬具倉庫にあった編み込み用のセットが入った小箱を持ってくると、デイジーのたてがみを使って見本を見せてやった。