第40章 エルヴィン・スミスの表と裏
勢いよく振り返ったクレアに、カップを持っていた2人がビクリとなる。
「ちゃんとシェリルとダスゲニーにもあげておくので安心してくださいね!!」
ちょうど窓からさしこんでいる朝日のような眩しく屈託のない笑顔を2人に向けると、クレアは大慌てでエルヴィンの執務室を後にする。
閉められた扉の向こう側からはパタパタとクレアの走る足音がしばらく執務室に響いていた。
「…………………」
リヴァイは自分だけの愛しいクレアが、屈託のない眩しい笑顔をエルヴィンにも向けていたことが気に入らず、不機嫌オーラを放ちながら眉間にシワを寄せてしまう。
これではこの間した“躾”がまったくもって効果を発揮していないではないか。
ここまでくると、クレアは本当に根治不可能な正真正銘の拗らせ鈍感奇行種だ……と、リヴァイは深いため息をつきながら心の中で呟いた。
しかし、エルヴィンはそんなリヴァイを見てクスリと笑う。
「エルヴィン…何がおかしい。」
「いや、リヴァイも苦労が絶えないなと思ってね。」
「………今に始まった事じゃねぇよ。」
図星をつかれてしまい、苦し紛れに言い返す。
そう、今に始まった事ではない。
自分はクレアを初めて見た時からずっと振り回されっぱなしなのだ。
でもだからと言って手放すつもりなど毛頭ない。
「確かにアイツは拗らせ鈍感奇行種だ。だからと言って他の男に譲る気など更々ないからな。」
そう言ってカップに残っている紅茶の最後の一口を飲み干すと、リヴァイは立ち上がりエルヴィンの執務室を出て行った。
「そんな事……分かっているさ。」
ボソリと絞り出すような返事がリヴァイの耳に入ったかどうかは不明だ。
しかしそんな分かりきった返事をしたにも関わらず、エルヴィンは昨夜のクレアを思い出すと、またモヤモヤとした気分が胸を締めつけた。
「はぁ……」
我ながらなんと女々しいと自虐的に溜息をつくと、タイミングがいいのか悪いのか、ミケがやって来た。