第40章 エルヴィン・スミスの表と裏
「あの、つい先程この書類をハンジさんから渡されまして……団長と兵長の所に持っていって欲しいと…」
クレアは持っていた書類を2つに分けると応接セットのソファに向い合って座っているエルヴィンとリヴァイに差し出した。
「なんで、ハンジが自分で持ってこねぇんだよ。」
「ハンジさん、寝坊してしまったみたいで…私にこれを渡すと急いで食堂まで走って行っちゃいました。」
「ったく、あの怠慢クソメガネが……」
「まぁリヴァイ、あのハンジがぎりぎりだが提出期限を守ったんだ。ひとまずよしとしよう。クレアも忙しい朝にすまなかったね。ありがとう。」
そう言って書類を受け取ったエルヴィンの表情はクレアの知っているいつもの爽やかなエルヴィンだった。
だがクレアはこの優しい笑顔の下に隠された真実を知ってしまった。
しかし、だからと言って自分にはエルヴィンの抱える重荷を軽くする事はできないのだ。
「いいえ、とんでもないです。」
自分にできること。自分がこの兵団の全ての責任を負っているエルヴィンのためにできる事。
「団長、兵長、せっかくなので紅茶を淹れますね。」
それは、兵士として巨人の討伐を一体でも多くする事は勿論だが、今できるのは、昨晩エルヴィンが望んだように笑顔で紅茶を淹れる事だ。
クレアは慣れた手付きで2人分の紅茶を淹れると応接セットのテーブルに出す。
「お前の分は淹れなかったのか?」
するとリヴァイが怪訝な顔でクレアを覗き込んだ。
「は、はい。実は食堂の職員の方に…って…あー!!こんな時間!!」
クレアは執務室の時計を見ると、慌てて置いておいた大きい麻袋を抱え、早口に話しだした。
「実は食堂の方にこんなに沢山人参の葉っぱを頂いたんです。みんなに食べさせてあげようと思ってたのですが、あ、あ、あ〜〜〜!どうしましょう!今日は天気がいいので朝のうちに馬着を洗濯しとこうと思ったのを忘れてました!!」
「何だよ騒々しいなぁ…」
「なのですみません!!これで失礼致します!!」
バタバタと執務室を後にしようとしたクレアだったが、ドアノブに手をかけたところでハッと思いとどまり2人の方に振り返った。