第40章 エルヴィン・スミスの表と裏
「……ミケか。」
「ようエルヴィン。慌てたハンジから、コレをエルヴィンに渡しといてくれと押し付けられた。相当慌ててたみたいだが、なんかあったのか?」
するとエルヴィンは先程クレアから渡されていた書類に目を通した。
「悪いなミケ、おそらく提出し忘れたのが出てきたんだろう。今朝のハンジは寝坊をしたらしい。」
「そうだったのか。」
様子から察するにミケは特にエルヴィンに用事はなかったようだ。
ハンジからの預かり物を渡すとその手には何も残っていない。
用事は済んだとばかりに出ていこうとするが、何かに気づき鼻をスンスンとならすと、ミケは悪い笑みでエルヴィンに振り返った。
「エルヴィン、付き合って欲しいなら今夜あけとくからな…」
それだけ言って軽く右手を上げると、ミケは出て行ってしまった。
「はぁ……」
鋭いミケのお誘いにエルヴィンはもう返す言葉も出てこなかった。
しかし、昨晩、精も根も尽き果てて意識を手放した後、行きつけの娼館で働くリンネが自分に向かって笑いかけてくれてる様な、そんな夢を見たような気がしたのを思い出す。
心なしか“私に会いに来て”と言っているように感じなくもなかった。
きっと今夜ミケは自分を誘いにくるだろう。
幸いクレアのおかげで今日の仕事は順調に終わりそうだ。
モヤモヤとした気持ちを切り替えると、エルヴィンは机に向かってテキパキと仕事の準備を始めた。
タイムリミットはミケが迎えにくるまでだ。
それまでに何が何でも終わらせようと思えば自然とやる気も起きる。
「さて、始めるか…」
ーお気に入りの娼婦に会いに行くためー
そんな理由でやる気が起きるのも、エルヴィンの裏の顔の1つなのだろうか。
しかし、さすがにそんな事を知っているのは……
おそらくエルヴィン本人だけだろう。