第40章 エルヴィン・スミスの表と裏
懸命にシーツを掴み、今にも溢れてしまいそうな涙を浮かべた硝子玉の様な蒼い瞳は扇情的にエルヴィンを見つめた。
「あぁ…団長……もうダメ…わた…し、イッちゃいます……」
ガクガクと震えながら迫りくる快楽の波を全身で受け止めようとしているなんともいじらしいクレアの姿。
「はぁん…エルヴィン団長…」
その幼くも厭らしい表情で自身の名を呼ばれてしまえば、エルヴィンだってもう限界だ。
クレアと身体を密着させるように抱きしめて深い口付けをしながら腰を打ち付ければ、愛欲に溺れた2人は同時に絶頂に達してしまった。
「クレア…」
欲望の果てをクレアの最奥に放ってしまえば、かたく閉じた瞼は再び真っ暗な暗闇へと戻る。
「…………」
そしてそっと目をあければ自分の右手には今しがたクレアの最奥に放ったはずの白濁液がベットリと絡みついている。
「はぁ……」
なんともいえない罪悪感と共に虚無感や疲労感が一気に押し寄せる。
気怠い身体を起こして、虚しい虚無感にため息をつきながら手を洗っている自分の姿はなんとも滑稽だ。
エルヴィンは排水口に流れていく自身の精液を見つめながら自虐的に笑った。
今日の自分はどうかしていた。
思う通りにいかない王都での会議に、調査兵団への勧誘講義。
そして極めつけは、未亡人の貴族の屋敷に上がり、愛してもいない女を、仰せのままに抱いてきた。
どうかするのも無理ないだろう。
しかしクレアへの想いはきちんと断ち切った筈なのだ。妄想の中だけとはいえ、こんな事はもう辞めなければとエルヴィンは改めて今した行為を反省した。
そして、明日顔を合わせる事があるならば、いつもの様に接してあげなければ、クレアを気に病ませてしまうだろう。
アレコレとぐるぐる考え事をしているうちに、完全に疲労困憊となったエルヴィンは、シャワーも浴びずにブーツを放り投げると、そのまま布団もかけずに倒れ込んだ。
すると、こんな疲労困憊のエルヴィンの脳裏にふと1人の女が現れ、優しくこちらを見つめて微笑みかける。
「………リンネ……」
意識を手放した直後にうわ言の様に出てきた名前は、行きつけの娼館の娼婦の名だった。